13 / 56
13 ショックと弁解
――
僕が呆然とその背中を見送っていると
「めちゃくちゃ有名人がこんなところにいるからびっくりしたよ〜」
と、花井君が言いながら、先程まで王子が座っていた僕の隣に座った。
「でも、意外だったな。
あんな完全無欠の王子って顔してる人が、山路くんの肩を借りてるんだもん!
弱みとか見せるタイプなんだね」
感心したように花井くんが話しているが、僕は全く聞いていなかった。
あんな突き放したような言い方をされたのは初めてで、ショックだった。
っていうか、「男なら誰でもいいんだな」ってなんのことだろう。
まさか僕が、八王子くんから花井くんに推し変したと思われたのかな。
それを尻軽のように卑下された、とか!?
僕にとって、八王子くんは全人類が束になっても勝てないくらいの推しだと言うのに。
そもそも、花井くんとは土俵が違う。
でも、もしも、本当に万が一、僕が推し変をしたとして、
八王子くんを好きな人たちなんて沢山いるんだから、彼が怒るとは思えない。
あんな感じだったら、文化祭が終わっても、彼はお昼に会ってくれないだろう。
そんなの…、嫌だ。
でも、僕にはどうしたらいいか全然分からない。
僕が呆然としていると、花井くんはそれに気づいているからかは分からないけれど
「やっぱり山路くんもお腹空いてると思って、沢山買ってきたから、一緒に食べよう?」
と、ビニール袋から沢山の、食品が入ったプラスチック容器を取り出す。
「箸も2膳あるよ」と得意げだ。
そんな花井くんの様子に少しだけ心が安らぎ、全然食欲はなかったが「ありがとう」とお箸を受け取った。
あまりに沢山あるから「半分はらうよ」と言ったが「上級生の出店は、売っている女子の先輩が『1年生?可愛い〜』って言って、ほとんどタダでくれたから」と断られた。
1年生だからっていうか、顔が可愛い花井くんだからって気はする。
僕だったら、しっかりと代金は取られただろう。
花井くんも初等部や中等部からいて、浮いてなかったら、相当女の子からキャーキャー言われる存在だっただろうな。
世の中ってなんて不公平、と思ったら花井くんへの罪悪感は消え去り、遠慮なく受け取ることにした。
でも、やっぱり八王子くんの様子は引っかかり、あまり喉を通らなかったけど。
それから15時近くになり、僕はクラスに向かうことにした。
花井くんは1人でも全然回れそうだと言って、イベントをする体育館に向かうらしい。
クラスの出店は案の定、15時あたりからほとんど人がくることがなく、生徒会の面々も体育館で司会や裏方の仕事があるようで、見回りにもこなかった。
校舎にいたら、八王子くんと会ってしまうのでは?と緊張していた僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
でも、僕は彼をちゃんと推したいので、僕の心が決まったら、ちゃんと「八王子くんだけが好き」だと言わなくてはいけないと思った。
むしろ「気持ち悪い」と思われてしまいそうな気がしないでもないけれど、そこはヲタクとして絶対に譲れないところだから。
ともだちにシェアしよう!

