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14 お祭りのその後

2日目も特段1日目と変わらず、あっという間に文化祭が終わった。 もちろん、八王子くんは大忙しで話すタイミングはなかった。 教室の片付けをし、いよいよ下校時刻になったので帰ろうとすると、クラス委員の子が話しかけてきた。 「あのさ、打ち上げでお好み焼きやさん予約してるんだけど、山路くんはどうかな? 売上を使うから、会費はかからないんだけど…」 打ち上げか… 正直、全然行きたくはない。 けど、断れるほど僕の気は強くない。 「えっと…、僕もいいの?」 「うん!みんなが嫌がる時間も店番してくれたし、全員来れたら嬉しいな」 「じゃあ…、行こうかな」 「クラスのラインに詳細貼っておくね」 「ありがとう」 僕がそう言うと、委員長は「じゃあ」と言って、他のクラスメイトの方に向かった。 クラスの打ち上げか…、八王子くんもくるかな。 同じテーブルに座れるとは思わないけれど、焼いてるところとか見られたらラッキーだな、と思った。 よくあるチェーン店のお好み焼き屋さんに着くと、仲良い人たちで固まってみんなが座っていた。 僕は、そんなに派手じゃない人たちが座っているところに座った。 「ここ、自分で焼くらしいよ」 よく1人で行動している木田さんに声をかけられた。 「えっ…、どうしよう。僕、やり方わかんない」 「うちね、お母さんが大阪人だから家でめっちゃ作るの。すごく得意」 そう言ってニヤリとした木田さんに向かいにいた男の子が「よっしゃ!助かった〜」と大袈裟なリアクションをして、場が和んだ。 打ち上げも来てみるもんだなと感心した。 少しお腹が膨れてきたなと思って、周りを見渡すけど、八王子くんの姿はなかった。 今いないってことは、参加しないのかな。 そういえば、何時頃だろうと時間を確認しようとして携帯を忘れてきたことに気づいた。 今日は金曜日で、回収しないと土曜日に学校にこなくてはならない。 それはとても嫌だったので、同じテーブルの人と、委員長に「携帯忘れてきたから取りに行く」と伝えてお店を出た。 まだ学校が開いてますように、と祈りながら小走りで学校に戻った。 まだ学校は鍵が空いていてホッとしながら教室に向かう。 事務員の先生とすれ違い、「あれ?まだ残ってたの?」と声をかけられたが、「携帯を忘れて…」というとほっとした顔をして 「おっちょこちょいなのね〜」と笑って解放してくれた。 そりゃ文化祭後、結構時間が経ったのに1人で残ってたら心配されちゃうか。 教室に行き、自分の席の机を弄(まさぐ)ると、馴染んだ手触りの携帯が出てきた。 たまに机に入れたまま、帰っちゃうんだよな… 通知を確認すると、アプリからの広告が数件と花井くんから『打ち上げ楽しい?』とラインが来ていた。 展示だったから、売り上げもなく、打ち上げもないと悲しんでいた。 たしかに展示は楽だけど、青春って感じはしないかもなと思った。 誰もいない校舎が少し新鮮で(僕は帰宅部だから帰る時はまだ部活をしてる生徒が沢山いる)、僕は少し遠回りして昇降口に向かうことにした。 ふと、いつもの空き教室の中に目を向けると、人影がいた。 八王子くんだ。

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