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15 伝える
いつも座っている椅子に座って、窓の外を眺めている。
時間は18時過ぎで、秋だから少し暗い。
電気もつけないで黄昏ている。
「あ…、えっと、八王子くん?」
僕が思わず声をかけると、彼は驚いた顔でこちらに振り向いた。
僕と目が合うと、「なんだお前か」と言って脱力した。
「か、帰らないの?
あ!そういえば、今、打ち上げしてるけど」
と僕が言うと、「座れば?」と彼が椅子を顎で指した。
「あ、う、うん」
僕はおずおずといつもの席に座る。
「お好み焼き臭い」
彼がそう呟き、僕は慌てて謝った。
行ったことなかったから知らなかったけれど、結構匂いがうつる食べ物なんだな…
「ごめんね、離れるね」
と僕が立ちあがろうとすると、「別にいい」と言って、また僕の肩に頭をのせた。
えっ…、なんで!?
またもや僕はガチガチに固まった。
「あ〜、忙しすぎて全然息抜きできなくてストレス」
彼が呟いた。
きっと、生徒会が忙しすぎて、1度遭遇した悪そうな友達たちと会えなかったのだろう。
「当日も、八王子くん忙しそうだったもんね。
お疲れ様」
僕がそう言うと、「だから打ち上げでわざわざ気を遣いたくないんだよな」と彼は言う。
「でもね、お好み焼き焼くの、楽しかったよ!
木田さんがね、本当に上手くてさ
携帯忘れてなかったら写真撮りたかったな」
僕がそう言うと、「お前、誰にでも尻尾振ってんのな」と彼が冷たく言った。
尻尾を振る!?僕が??
そんな愛嬌のある人間ではない。
「ふ、振ってないよ!」
「どうだか」
それで会話が止まった。
こないだと違って、八王子くんの頭はずっと僕の肩に置いたままだったけれど。
今がチャンスでは!?
僕はそう思い立って「あのね!」と声を出した。
思ったより大きい声が出て、自分で驚く。
「あ、ごめん。あの、昨日言われたことなんだけど、その、僕が推してるのは八王子くんだけだよ!八王子くんだけ好きなんだ!
だから、その…、花井くんはただの友達で…」
「…、きも」
八王子くんは、すげなくバッサリと切った。
でも、なんだかさっきよりは、怒ってないような気がする。
「あの…、来週からもたまにここで一緒にご飯食べてもいい…、ですか?」
「勝手にすれば」
「うん!」
また八王子くんと過ごせるんだと僕は明るい気持ちになった。
そこで僕の携帯が震えた。
『いいな〜。今度は僕とお好み焼き行ってよ!』
先ほどラインを返した花井くんから返事がきたみたい。
あ…、そういえば、僕が八王子くんとお昼食べるなら、花井くんが1人になるんじゃ…?
そこで僕は「あの、花井くんもここに呼んでいい?」と彼に聞いた。
「…、うざ」
彼がそう吐き捨てた声を聞いた瞬間、僕は横並びになっている椅子の上に押し倒されていた。
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