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27 友達、再び
食欲があまり沸かず、僕はおにぎりを持ったまま、八王子くんのように椅子の上に寝転がった。
「うぅぅ…、八王子くんんん」
っていうか、椅子が硬すぎる。
頭は僕の膝の上とはいえ、こんなところでよく眠れるな、と感心した。
「八王子くん…」
「…、山路くん?」
「えっ!?」
急に声が聞こえて、僕は驚いて椅子から転げ落ちた。
あ、おにぎりも床に落ちちゃった…
「ちょ、大丈夫!?」
僕に駆け寄ってきてくれたのは、花井くんだった。
「だ、大丈夫。
なんでここに花井くんが?」
僕が聞くと、彼は僕を立ち上がらせてから椅子に座るように誘導して、僕の隣に座った。
「今、次期生徒会の選出とかで、役員メンバーがほとんど立候補の準備で忙しそうなんだよ。
で、やることもないし、八王子くんが生徒会室で原稿の読み合わせしてたから、山路くん1人かと思って来てみたんだ」
「そうなんだ」
「八王子くんじゃなくてごめんね」
花井くんがニヤニヤしながら言った。
「えっ!?な、なんで!?」
僕は、八王子くんへの劣情がバレたんじゃないかと焦ってしまい、大きな声が出た。
「そりゃ、あんなに名前読んでたら、僕でごめんねって思うよ。
あ、僕、ご飯食べてもいい?」
「…、どうぞ」
あれ、聞かれてたのか…
恥ずかしすぎる。
「その、八王子くんには言わないで欲しいんだけど」
と、僕がおずおすと言うと、彼は笑った。
「言わないよ〜。っていうかさ、八王子くん、自分から僕のことを生徒会に誘ったくせに
最近なんか睨んでくるんだよね。冷たいし」
八王子くんが冷たい?
皆の前では完璧な王子なのに?
「八王子くんは(皆んなには)優しいよ?」
それで僕がそう言うと、花井くんは「人前ではね」と言った。
「でもさ、最近気づいたけど、あれはキャラ作ってるよね」
花井くんが声を潜めて言った。
…、素を見せてくれるのは僕だけだと思ってたのに、花井くんにも見せてるんだろうか?
ライバル…、いや、そう呼ぶのは烏滸がましいのは重々承知だけど、
敵はメグミさんだけだと思ってた。
でも、花井くんも要注意人物かも知れない。
八王子くんを推すと言うことは、男女問わず、敵まみれになるということか…
たとえ、注意すべき人々がいなくても、僕なんかが八王子くんに好いてもらえるわけはないだろうけれど!
ガチ恋勢にとって、推しに恋人がいないに越したことはない。
「素の八王子くん、怖そうだよね」
「そ、そんなことない!…、と思うなぁ」
僕が強く否定したので、花井くんが驚いた顔をしている。
慌てて語尾を柔らかくした。
「ふーん」と、花井くんはニヤニヤしている。
友達がいるって嬉しいことだけど、察しが良すぎるのはちょっと怖いかも…
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