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30 2時間半

そして放課後。 僕はまた空き教室にいた。 こないだみたいに夕方まで来ないなら、後ろの準備をする時間はあるけれど… 学校でするのはちょっと抵抗がある。 それに、八王子くんがすぐにここに来る可能性がある。 彼を待たせるなんてだめだ。 あの日以来、お昼しか彼に会っていないから、どうして呼び出されたのかわからない。 僕はそわそわして、教室の中を歩き回ったけど、それはそれで不審なので いつかのように座って課題を広げた。 あの日は目的が明確だったし、生徒会が終わるまで来ないことが分かっていたから、課題ができたけれど、今日は手がつかない… 唸っていると、ドアが開いた。 「あ、八王子くん。お疲れ様」 と、僕が声をかけるが華麗に無視をされ、彼は定位置に座る。 「あ、あの…」 準備ができていないことを言おうとしたら、膝の上に彼の頭が落ちてきた。 え?膝枕???今? 「あ、え、えっと…」 僕は訳が分からずに狼狽える。 「昼は邪魔が入ったから。少し眠らせて」 彼が目を閉じて言った。 お昼も1人で寝てたと思うんだけど… そのまま固まっていると「なんか喋って」といつもの無茶振りをされて、僕はまたポツポツとくだらない話をする。 いつもの癖で、思わず頭を撫でてしまったけれど、八王子くんからは何も言われなかったので続けた。 お昼は時間が決まっているから、やめ時が分かるんだけど、放課後の場合は一体いつまでこうして話し続ければいいか分からない。 生徒会の話題は禁止だし、僕はぼっちだから毎日大したことが起きないし… それで、30分断たずして黙り込んでしまった。 が、彼は完全に寝てるようで、「なんか話して」と指摘されなかった。 僕は手を限界まで伸ばして、八王子くんが来る前まで眺めていた課題に取り掛かった。 膝の上に人の頭があると、勉強するのって難しい。 けれど、ゆったり低下し続ける僕の学力を早くなんとかしなくてはならない。 塾にも行ってるんだけどな… 生徒会をして部活もあって、成績優秀をキープできる八王子くんって本当に何者… 下校を促す放送が流れ、僕はそろそろ学校が閉まる時間だと気づいた。 「八王子くん、帰らないと!」 と、彼を揺り起こす。 彼は眉間に皺を寄せ、唸りながら目を開けた。 「下校時間になるみたい」 「…、2時間半」 彼がポツリとつぶやいた。 「え?」と、僕は困惑したが、彼が寝た時間を言ったのだと気づく。 「椅子の上だと、肩とか痛くない?」 2時間半もここで横になるなんて、僕なら体を痛めてしまいそう。 「眠れないよりまし」 彼がそう言って起き上がった。 彼の重みが外れて、僕の太ももは急激に血が巡り始めた。 やばい‥、いつもより長かったから痺れてる。 「…、山路帰らないの?」 立ち上がらない僕を不審に思ったのか、八王子くんが聞いた。 「ううん。帰るよ! あと少しで課題終わるから、八王子くんは先に…」 と、僕が言いかけると「手伝おうか?」と彼が座り直した。 「だ、大丈夫!本当にあと少しだから!」 本当ならすごく嬉しい提案だけど、足が痺れてるなんてバレるの恥ずかしい。 「ふーん?」と彼は不審そうな顔をしたけれど、「あまり遅くなると閉じこめられるよ」と忠告して帰って行った。 僕はほっと一息ついて、自分の足をさすった。

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