それから、お昼は八王子くんだけが、空き教室にきた。 初日に「花井くん、来ないのかな」と呟いたら、八王子くんが不機嫌そうに「雑用任せたから当分来ない」と言った。 そ、そんなことできるんだ… なんのために？ 色々気になったけれど、生徒会の話は禁止なので口をつぐんだ。 それからは、平和な？日常を送っていたけれど、新生徒会に向けた選挙活動はどんどん進む。 投票1週間前から、学校の前に立候補者と推薦者が立って、挨拶をしていた。 もちろん、八王子くんとメグミさんもいる。 王子スマイルで挨拶しつつも、合間にメグミさんと話してる。 そんな2人がとても絵になっていて… 僕は顔を上げて挨拶を返すことができなかった。 これを1週間毎日見なきゃいけないかと思うと、朝から重い気持ちになる。 教室に着き、机に突っ伏してHRが始まるのを待っていると、王子のファンの子が固まって盛り上がっていた。 「ねぇ！王子から挨拶された？」 「されたよ。めっちゃ王子だった」 「幸せだよね、朝から」 そんなふうに言っていて、僕も首が千切れるほど頷きたかった。 「でもさ、いくら選挙のためとはいえ、近すぎない？」 「あの生徒会の女の子でしょ？」 「なんか付き合ってるらしいって聞いた」 「え！？マジ！？」 「なんかね、生徒会室とかでもずっと一緒にいるらしいよ。八王子くんも満更でもなさそうって」 誰かがそう言うと悲鳴が上がった。 僕もかなりショックを受けた。 メグミさんと付き合ってる… 八王子くんに彼女がいたことはあった。 でもそれは中学までで、高校からはそんな話は聞いたことがなかった。 でも、八王子くんは優しいから、彼女ができるととっても大切にしているように見えた。 そんな姿を見ても、中学の頃は「お似合いだな」とか「素敵だな」くらいにしか思わなくて、ちゃんと応援できていたのに… 僕は彼に近づきすぎたのかもしれない。 今は嫉妬のような図々しい感情でいっぱいになってしまった。 それから、投票までの1週間。 彼が空き教室に来ることはなかった。