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32 タイミング
それでも僕は彼のファンなので、投票日にはしっかり八王子くんに投票した。
翌日の開票結果を発表する集会で、誰もが予想した通り、副会長に当選したのは彼だった。
それぞれ当選者から一言があり、全校集会は解散となったけれど、帰り際、ふと彼の方を見てしまった。
八王子くんとメグミさんが抱き合って喜んでいた。
それを見たのは僕だけではなかったようで、教室ではファンの子たちが
「王子が副会長は嬉しいけどさ、あの光景は複雑だよね」と、嘆き合っていた。
僕も一緒に彼女たちと嘆き合えたら少しは気持ちが軽くなるだろうか。
この日は塾で…、僕は全く身に入らないまま講座を終えた。
僕の成績はいつになったら上がるのかな。
トボトボ歩いていると、向かいから来た人と肩がぶつかった。
「いてぇな」と相手がこちらを睨む。
「あっ、す、すみません!」
怖そうな人だ。僕はつくづく運がない。
あれ?この人、八王子くんと一緒にいた…
「あれ?その制服…、お前、煌也と同じ学校のジミ男か!」
「あ、は、はい」
僕がそう言うと、彼は僕の肩を組んで「あいつ最近、女できたからか付き合い悪いんだよな」と言い始めた。
多分、メグミさんだろう。
こっちにもあまり来てないんだ…
治安が悪いって言われたから、別にこの辺で偶然を装って会おうなんて思ってない…、けど
でも、会う確率は全然無いんだ。
「煌也に言っといてよ。たまには顔出せって」
「あ、え、でも、僕はそんなに八王子くんとは仲が良くなくて…」
「あ?しらねぇよ。同じ学校なら会うだろ。
そんとき言っとけって」
「わ、わかりました」
もう八王子くんと話す機会はないだろうけど、この絡んできた人とも会う機会はないだろうから、テキトーに話を合わせた。
そろそろバスが来ちゃう…
「ああ。じゃあな」
彼は案外あっさりと解放してくれた。
こ、怖かった…
明日から、彼女がいる八王子くんを推すのが辛いなぁ。
八王子くんを見るために登校してたようなものだから、生きがいのようなものを失ってしまって、酷く学校に行くことが億劫になってしまった。
幸か不幸か…、僕はその翌日から発熱し、まさかのインフルエンザだった。
1週間、合法的に休むことが認められた。
母は僕の体調心配しつつも、それ以上に成績を心配していた。
うん。
僕も取り戻せる気はしない。
それでも、今は八王子くんと距離をおけてラッキーだったのかもしれない。
休んだその日だけ、八王子くんから『休み?』と、連絡が来ていた。
『インフルになっちゃった』と送ったら『お大事に』とだけ来た。
あとは僕が高熱で意識が朦朧としすぎて返事をしないまま、時間が経って返すタイミングを失ってしまった。
お昼、1人でとっててよかった。
うつす心配がない。
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