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34 引きずられて来た先は…
木田さんにノートを返した後も、僕はお昼休みを図書室で過ごした。
飲食禁止なのが辛いけれど、さっさとおにぎりを教室で食べてしまえば、特に不便ではなかった。
八王子くんは本格的にメグミさんと付き合っているようで、僕のクラスにも頻繁に彼女が出入りしていた。
朝は一緒に教室にくるし、昼休みも放課後も、彼女が八王子君を迎えに来る。
堂々と八王子くんの隣に立てる彼女が眩しかった。
中学の頃は、八王子くんの最長の彼女は1〜2ヶ月だったはず。
メグミさんとも、そのくらいで終わるのだろうかと一瞬考えて、そんなことを思う自分を責めた。
推しの幸せを願えないファンなんて、ファンの風上にも置けない。
僕はやっぱり、彼の担当を降りるべきなんだ。
一般人に担当という表現が合っているかは別として…
明日からは冬休みだ。
八王子くんを見ない日々が来る。
今まではそんな長期休暇が煩わしかったけれど、今回ばかりはほっとしてしまう。
仲睦まじく笑い合う2人を見なくて済む。
しかし、塾の方では冬季講習があるため、嬉しいばかりではなかったんだけれども。
僕はすっかり図書室が気に入り、放課後も塾がない日は勉強で使っていた。
家で勉強するよりずっと捗る。
明日からは図書室も来れないだろうから、長期休暇前日なのに、僕は放課後勉強をしていた。
すっと手元に影がかかる。
あれ?誰かが僕の手元を覗き込んでる?
そう思って顔を挙げると、八王子くんがいた。
久々にこんな至近距離で顔を見た…、と思う間も無く、彼が僕の手を掴んで立ち上がらせる。
「えっ!?あ、あのっ…」
彼は無言で僕の手を引くので、僕は手を振り払ってしまった。
「ちっ…」
と、苛立たしげな舌打ちが聞こえた。
僕の分際で、王子の手を振り払ってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい。
でも、荷物が…」
と、僕が言うと彼は「早くまとめて」と僕を急かすので、急いで勉強道具をしまう。
僕がカバンの蓋を閉めて、肩にかけるのを見計らって、彼がまた僕の手を引いた。
そして、ツカツカと早歩きで図書館を出る。
「えっ、えっと、どこに?」
と、僕がその背中に問いかけたが、彼は答える気はないらしく、一切合切振り向かずに、僕の手を引いて歩く。
股下の長さが全然違うので、僕は必然的に小走りで着いて行くことになった。
彼が立ち止まる頃には、僕は肩で息をしていた。
彼が止まった先は立派な一軒家だった。
表札に『八王子』とあり、ここが彼の家だと悟る。
お家、学校に近いんだ…
って、え!?家!?御実家!?
僕は混乱したまま、門を開け、靴を脱ぎ、スタスタと歩く彼に必死についていく。
「あ、あの、お家の方とかにご挨拶とかは…、あ!手土産とかも僕持ってない…」
「今日も親はいないから」
そう吐き捨てられて、僕は「そ、そうなんだ」と言うしかなかった。
今日"も"…?
八王子くんのご家族は家を空けることが多いのかな?
僕にはあまりない感覚だ。
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