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35 お部屋

そして僕は思いがけず、彼の自室に入ることになった。 ベッドと勉強机、それにローテーブルと低いソファ、そしてたくさんの本棚。 教科書や参考書がぎっしりと並び、少しだけ本もならんである。 っていうか、部屋も広い。 男子高校生の自室にソファなんてある? 僕は、部屋の入り口で立ち尽くし、キョロキョロと見渡していると、またグンっと腕を引かれた。 「わっ」と情けない声を上げながら、僕は彼のベッドにダイブする。 人のベッドに勝手に上がるなんて…、と僕は申し訳なく思い「ごめんなさい!」と謝りながら起きあがろうとすると、肩を押し付けられた。 机とか椅子じゃないから痛くはないけれど、体の自由が効かないのは怖い。 「あ、あの…、八王子くん?」 恐る恐る彼を見上げると、表情が抜け落ちたような冷たい顔で僕を見下ろしていた。 「昼…、どこにいんの?」 「へ?ひ、昼? あ!えっと、お昼は図書室にいるんだ。 勉強しなきゃいけなくて」 そう言ってる途中で僕はとんでもないことを思い出した。 「鍵!ごめんなさい! 僕が休んでいる間、空き教室使えなかったよね。 また僕が急にお休みになった時に、八王子くんが使えないといけないから鍵返そうと思って」 僕が焦りながら、説明をしていると、彼が僕の上に落ちてきて、体重をかけられる。 八王子くんは決して太ってなんかいないけれど、如何せんタッパがあるので重みがある。 ちょっと苦しい。 「は、八王子くん…、苦しい…」 「鍵は別に良いけど…、いつまで図書室使うわけ?」 僕の耳のすぐ横で彼の声が聞こえるのがくすぐったい。 「いつ…、って決めてはないけど、僕の成績があがるまで…、とかかな」 正式には、八王子くんがフリーになるまでは、僕の精神が持たないので、あまり会わないようにしたいんだけれど。 「…、そんな日、くるの?」 「ぐ…」 あまりにも切れ味が鋭くて僕は詰まってしまう。 「山路のくせに、俺のこと避けてる?」 「えっ、そ、そんなことは…」 なくはないので、速攻で否定できなかった。 それが八王子くんの機嫌を損ねたのか、彼の手が僕の頬を抓った。 「い、いひゃい…」 「変な顔」 僕の頬を引っ張ったまま、彼が鼻で笑った。 何度も言うけれど、彼の顔面のクオリティから見たら、大抵の顔は変に見えるはず。 「もう俺に飽きた?」 「ち、ちがっ!違う!!」 僕の推しへの愛をみくびらないで欲しい。 …、けど、推しに恋人ができたとして、変わらずに推せるオタクなんている? 「八王子くんは、変わらずにずっと僕の特別だよ」 「相変わらずきもいな…」 八王子くんの方から聞いてきたのに… 「で、でもね、僕は、八王子くんに近づきすぎちゃったと思う…。 だから、今度からはまた中学の時みたいに見る専で…っ」 そう言いかけた瞬間に、今度は顎を掴まれて、話せなくなった。 っていうか結構、八王子くんは握力が強いような… あ、顎が砕かれちゃう!痛い! 「いてててて」僕は、僕の顎を掴む彼の手首をつかむ。 「なんだそれ…、山路のくせにうざい」 どうやら僕は、何か間違えたみたいです。

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