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37 帰宅と心配
どこかから音楽が聞こえてきて、僕の意識は覚醒する。
あれ?僕、何してたんだっけ…?
ガバリと起き上がり、自分の携帯を探す。
辺りは薄ら暗い。
自分の携帯を見つけて手に取る。
母親から何件か着信が来ている…
その瞬間、僕はここが八王子くんの家であることを思い出した。
時刻は20時。
あのまま寝てしまったみたいだ。
お母さん、絶対心配しているな…
それでも、どこかから着信音のような音とバイブ音が聞こえてその場所を探す。
と、隣で寝ていた八王子くんの枕元にもう一つ、彼のものと思われる携帯が光っていた。
僕のはマナーモードだから気づかなかったけれど、彼のはちゃんと音が鳴っている。
起きそうにもない八王子くん…
僕は悪いと思いながらも、それを手に取った。
どうやらライン電話がかかっているみたい。
『メグミ』
その名前に、僕は携帯を落としそうになった。
電話とかしあう中なんだ…
僕は先ほどまでの幸福感が一気に冷めていくのを感じた。
いくら最中は独占できていても、結局のところ、八王子くんの大切はメグミさんなんだ…
僕は、そっと携帯を戻すと、ベッドから降りて
薄暗い中、下着や服や荷物をかき集めて
いそいそと彼の家を後にした。
帰り道の途中で、お母さんに連絡をした。
「どこにいるの!?」と、最初は慌てた様子だったけれど、僕が「友達の家でゲームしていたら疲れて途中で寝落ちしちゃった」と言うと
「そっか…、稔にも友達がいるのね」と嬉しそうにしていた。
「次はうちにも連れてきなさいね」とも。
多分、彼を友達として家族に紹介することはないだろうな。
だって、世間的にいえばセフレだし。
セフレを家族に紹介する人なんていないだろう。
家に着くと、八王子くんから「今どこ?」というラインが来ていた。
でも僕は、返す元気もなくて、お風呂に入って寝る支度をする。
ご飯も食べる気になれず、お母さんに心の中で謝りつつ、「明日食べます」と、冷蔵庫にしまった。
ふと携帯を見ると、彼から着信が来ていた。
「えっ?」
どうしよう…、何かあったのかな!?
掛け直した方がいいかな?
と、画面を凝視していると、また電話が来た。
「は、はい!もしもし!」と慌てて通話ボタンを押す。
八王子くんは「今どこ!?」と、何やら息が上がった様子だった。
「え!?あ、えと、自宅にいる」
僕がそう言うと、彼は息をついた後に「あっそ」と言った。
不意に沈黙が現れ、彼の背後から車が走っているような音が聞こえた。
「え?八王子くん、外にいるの?」
それで僕がそう聞くと、彼は沈黙を貫く。
も、もしかして、起きたら僕がいなくて、彼は焦って外を探してくれてたんだろうか?
いや、でも、僕は男だし、
心配されるような間柄でもない。
流石にそれは思い上がりがすぎる。
「し、心配してくれた…、とか?」
僕が茶化しながら言うと
「起きたらいねぇし、返事もないし、電話も出なかったら普通にするだろ」
と、いらだった声が返ってきた。
本当に申し訳ない気持ちが沸いたけれど…、と同時に嬉しさを感じてしまった。
本当に最低だ。
「ご、ごめんね。僕は大丈夫だから」
「…、休み中、俺が呼んだらいつでも来ること」
「ん?えっ?」
僕はよく分からなくて聞き返したけれど、電話は非情にも切られてしまった。
八王子くんが僕を呼んだら…?
それって、休み中も会えるってこと?
僕は嬉しさと困惑で胸がいっぱいで
全く眠りにつけなかった。
今日が長期休暇の前日で良かった…
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