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40 不眠?
「うぅ…」
そんな唸り声が聞こえて、僕はハッと目を覚ました。
またまた僕は彼の家で寝落ちしてしまったみたい。
そっと彼の腕を抜け出す。
ふと八王子くんの顔を見ると、つらそうに表情を歪めて眠っていた。
「うぅ…」
先ほどの唸り声は八王子くんだったみたい。
なんだか悪化してるようだけど、大丈夫かな…
「は、八王子くん?大丈夫?」
僕が声をかけると、八王子くんはうっすらと瞼を開いた。
「なんか…、寒気がする」
「えっ!?それ、多分また熱が上がってるんだよ!やっぱり病院に行った方がいいよ」
「…」
でも、僕は八王子くんを運ぶことはできない。
僕が頼れる人なんて…
「ちょっと待っててね」
僕はそう言って彼の部屋を出た。
家の中はしんとしていて、もしかしたら家政婦さんは帰ったのかもしれない。
僕は母親に電話をかける。
時刻は午後5時前で、母は今頃パートから帰って夕食の支度をしている頃だろう。
「もしもし?稔?どうしたの?」
冬休みなのに珍しく外出している僕に驚いた様子だったけれど、お見舞いに行った友達の風邪が悪化してしまったと言うと
「私が車で連れて行くわ」と、意気揚々と動き始めた。
僕は母に位置情報を送った。
八王子くんは嫌かもしれないけれど、やっぱり病院は行った方が良い。
母が来ると、八王子くんはすごく驚いた様子だったけれど、人のいい笑みを浮かべて「本当に助かります」と言って、抵抗せずに受診した。
結果、流行病とかではなかったけれど、
生活リズムの乱れとかで
かなり免疫力や抵抗力が下がっているみたい。
冬休みが始まって2日で、生活リズムがそんなに崩れることあるのかな?
だとしたら、八王子くんはめっちゃワルだ。
帰りの車の中で、僕は八王子くんに
「どうして生活リズム崩れちゃったの?」
と聞くと
「元々、あまり眠れないから」
と彼は渋々答えた。
そうなのか。初めて知った。
けれど、2人で過ごした昼休みとか、寝落ちした時とか今日とか…、八王子くんは結構眠りが深い気がしたけど…
僕が不思議そうな顔をしていたからか、
「まあ山路の前では結構寝てるか」と
八王子くんは言った。
「うん。どうして家だと眠れないの?」
僕がそう聞いた瞬間、車が彼の家の前に着いた。
八王子くんがよそ行きの顔で「本当にありがとうございました」と僕の母に言った。
「いえいえ。いつも1人で偉いね、八王子くん。
稔と仲良くしてくれてありがとう。
何かあったら、また頼っていいからね。
あ、稔。お部屋まで付き添ってあげたら?」
母にそんなふうに言われ、僕は頷いて八王子くんと一緒に車を降りた。
「だいぶ落ち着いたからもう大丈夫だと思うけど」と、彼が言ったが、
僕が八王子くんと離れがたかったので「僕が付き添いたいだけだから」と押し切った。
体調が悪いと気も弱くなるのか、いつもは僕なんかの一言で意見を曲げたりしないのに…
早く八王子くんが良くなるといいな。
今日の八王子くんももちろん素敵だけど。
別れ際、布団の中で彼が「山路もう帰るの?」と聞かれた。
「う、うん。お母さんも待ってるし。
呼んでくれればまた来るよ?」
ちょっと嬉しい気持ちがありつつ言うと
「山路がいないとうまく眠れない」
と彼が言った。
「え?」と聞き返すと「なんでもない。早く帰れば」とぶっきらぼうに言われた。
き、聞き間違えじゃないといいな…
僕は期待で高鳴る胸を押さえて、母の車に乗り込んだ。
母はというと「稔の友達、超イケメン〜」とテンション高かった。
僕が八王子くんのファンなのは血筋の可能性がある。
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