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48 追い出される
次の日、僕は正午過ぎによろよろしながら帰宅した。
昨日までは、休み中に八王子くんに会えたら嬉しいな、くらいの気持ちだったのに
毎度これだと思うと、頻繁には会いたくないかもしれない…
こんな扱いをされるのは僕だけなのかもな。
嬉しいような気がしたけれど
すぐに『メグミさんは大切にされてるのかも』と思うと、たちまち暗い気持ちになった。
でも、それが僕が彼に必要とされる理由なら、僕は喜んで受け入れるしかない。
それから夏休み中は2度お家に呼ばれ、
学校でもお昼は毎日膝を貸したし、
夕方にたまに呼んでもらえることもあった。
八王子くんとメグミさんの噂も途絶えなかった。
だからまだ、付き合っているんだと思う。
今までの彼の最長をゆうに超える、4ヶ月…
いつ呼ばれなくなるのだろうと冷や冷やしたし
2人が破局することを望んでしまう。
そんな自分が本当に嫌いになりそうだった。
ある昼休み、いつも通り先に空き教室に行き、冬限定のお仕事、暖房をつける をやったところで、ドアが開いた音がした。
八王子くんかと思って振り返ったら、そこにはメグミさんがいた。
「あれ?煌也くん、まだ来てない?」
初めて声をかけられて、僕は固まってしまう。
そんな僕を彼女はじっと見つめた。
へ、返事しなきゃ…
「あ、えっと、はい。
たまに来ないこともあります」
「私のこと知らない?同学年だよ。
敬語使わなくていいから」
メグミさんが笑って言った。
バカにした感じではなく、フレンドリーな感じ。
いっそ嫌な感じな人なら良かったのに。
「あ、敬語は癖で…。
とにかく、八王子くんはまだ…」
2人きりが気まずくて帰ってもらおうとしたところで、
「あれ?メグミ?」
と、八王子くんが登場した。
「あ!煌也くん。
私もここでご飯食べていい?」
「えっ…」思わぬ提案に、声が出てしまった。
慌てて口を塞ぐ。
チラリと八王子くんを見ると、彼も驚いた顔をしていた。
「だめ?ここ、めっちゃいい場所だし」
「あー…、山路、悪いけどどっか…」
と、彼が言いかけた瞬間、僕の心は砕け散りそうだった。
少しでも期待した自分が恥ずかしい。
僕とメグミさん…、どちらが選ばれるかなんて分かっていたのに。
「あ、うん!出るね」
僕はお弁当袋を引っ掴んで、小走りで教室を出る。
「えー?なんかごめんね。
私は一緒でもいいのに…」
と、メグミさんに言われて、僕は会釈をした。
僕は3人でなんて耐えられない。
2人が仲良くする様子を見て、ご飯が喉を通るわけがない。
教室を出る瞬間、「山路」と彼に呼ばれた気がするけれど、聞こえないふりでいそいそと出た。
こんなの見せつけられて、傷つかないわけがないじゃないか。
今、少しでも八王子くんの顔を見たら泣いてしまいそうだ。
冬は外が寒くて、花壇でご飯を食べるわけにも行かず、教室に戻ろうとした。
すると、廊下で花井くんと会う。
「あ、山路くん!八王子くん見なかった?
いつもお昼一緒だよね?」
「あー…、空き教室にいるよ」
「え?八王子くん1人で?」
「ううん。メグミさん?もいる」
「そうなの?…、まさか、山路くんが追い出されたの?」
不思議そうな顔をしていた花井くんが、ハッとした顔をした後、怒った様子でそう言った。
図星を突かれて、胸がギシギシする。
「えっと…、そうなるかな?」
「マジで意味わかんないね!
僕と一緒に食べよう!行こう」
花井くんは僕の手を引いて歩き出す。
ついたのは花井くんの教室で、誰かの椅子を借りて2人で昼食を食べた。
僕のテンションが低いことに気づいたのか、花井くんはずっと心配そうな顔をしていた。
心配をかけてしまって申し訳ないけれど、詮索せずに僕を連れ出してくれた花井くんには感謝しかない。
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