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49 お迎え

気を遣っているのだろう、花井くんは たくさん話しかけてくれた。 だから、少し気持ちが紛れた。 「明日もあの女が来たら、僕の教室に来ていいからね!」 と、花井くんが言ってくれた。 あの女って… 生徒会では、花井くんとメグミさんはあまり相性が良くないらしい。 ただ…、一つ、新事実として メグミさんは下の名前ではなかった。 "目黒 勇海(イサミ)"さんと言うらしい。 いさみという名前が嫌なので下の名前で呼ぶなら 略して「メグミ」と呼んでと 周りにお願いしているとのこと。 とっても古風なおじいさんが、男の子の孫が欲しかったあまり、ちょっと雄々しい名前をつけられてコンプレックスとのこと。 八王子くんは、メグミさんを下の名前で呼んでいるわけではなかった… なんて、期待してしまったけれど 彼氏なら彼女が嫌がる名前で呼ぶわけない。 「そもそも、サバサバ系女子ってのが信用ならないんだよね。 そうやって男に付け入る女無理すぎ!」 と、花井くんは怒っていた。 僕にはその感覚はよくわからないけれど 八王子くんとも不仲だし、花井くんが生徒会で上手くやってるのか心配になった。 5分前に教室に戻ったけれど、そこに八王子くんはいなかった。 チャイムと同時に彼が戻ってきた。 生徒会でも会っているのに、お昼もそんなに長く過ごすくらい、メグミさん…、いや、目黒さんと仲がいいのかな。 一瞬、目が合った気がしたけれど、僕の方からパッと目を逸らした。 どんな顔をすればいいか分からない… 翌日、僕は目黒さんに会うのが嫌で、最初から花井くんの教室に向かうことにした。 「またあいつきたの?」 僕の顔を見るなり、花井くんが顔を顰めた。 「ううん、分からない。でも、会いたくなくて」 そう言うと、心配そうな顔をした後、「僕は山路くんとご飯食べれて嬉しいから、ウェルカムだよ」と笑いかけてくれた。 「ありがとう」と僕も、ほっと胸を撫で下ろして、お弁当を広げる。 まあ、おにぎりなんだけど… 包みを開けたところで、教室の入り口が騒がしくなった。 ちらりとそちらを見やると、八王子くんと彼に話しかけられて色めき立つ女子たちがいた。 「「え?」」 僕も花井くんも、そんな声が出た。 ばちりと八王子くんと目が合う。 スタスタと彼が僕の目の前まで来た。 僕たちは座っているから、背の高い彼に見下ろされる形になる。 「は、八王子くん?」 「行くよ」 ぴしゃりと言われて、僕は「え?どこに?」と困惑する。 彼は何も答えずに僕の腕を掴んだ。 「ちょっと!」 花井くんが八王子くんの手を掴んだ。 ジロリと花井くんを睨む王子… それに怯まないのが花井くんだ。 「見てわからない? 山路くんは僕と、ご飯食べてるんだけど」 「…、山路」 有無を言わさない声に、僕は立ち上がった。 だって…、僕は彼に逆らうことができない。 「山路くん、それでいいの?」 花井くんが心配そうな顔で僕を見ている。 せっかく助けてくれたのに…、「ごめんね」と僕は呟いていた。 「はぁ…、八王子くん、貸し1ね」 花井くんはため息をつくと手を離した。 すると、八王子くんの手が僕を引っ張って、僕は引きずられるようについて行くしかない。 「貸しとかねぇよ。元々俺のだから」 「…、ムカつく」 なんのことかわからないけれど、八王子くんと花井くんがまた険悪な雰囲気だ。 花井くんのクラスの子達が「王子ってあんな感じだっけ?」とヒソヒソしているのが聞こえた。 僕だけの秘密(八王子くんか本性)が…

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