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53 不貞はなかった?
彼の指がそこに触れた瞬間、激痛で僕は転げ回った。
「動いたら塗れない」
と、八王子くんに怒られた。
でも…、ありえないくらい痛い!!
お前のせいだろ、の気持ちを込めて八王子くんを睨んだ。
八王子くんは目を細めて僕を見た後、「その顔やめろ」と言われた。
そんなこと言われたって、憎いんだから仕方ない。
痛すぎて冷や汗をかいている中、八王子くんが表面に薬を塗ってくれた。
「ううぅぅ…」
もういい、と言いたいけど、自分ではその場所がわからないので呻きながら耐えていると
ぐっと指が中に入ってきた。
「ぎゃあ"ぁ"」
僕は叫んで足をばたつかせた。
痛すぎる!!!
右足が彼の肩に当たったようで、彼に足首を掴まれて舌打ちされた。
「俺を蹴るとはいい度胸だな」
「っ!だって!本当に痛い!!
もっ、指抜いて!」
「…」
八王子くんが無言で指を回した。
発狂しそうなくらい痛い。
体がブルブル震える。
「ちゃんと全体にならないと意味ないから」
と言った声に笑いが含まれている気がして、彼を見上げる。
彼は楽しそうな顔で僕を見下ろしていた。
楽しんでる!
僕がこんなに苦しんでるのに!
「だから、その顔やめろって。
指なんかじゃ済まないもの突っ込むぞ」
そして指が抜かれる。
「い"っ…、八王子くんのせいなのに」
「お前が変なこと言うからだろ」
「言ってない」
どう考えても、僕の考えが正しいはず。
彼女がいるのに、僕とヤるなんて、絶対に良くない。
いくら目黒さんにしちゃいけないことを僕で発散できるとしても、それは不貞行為だ。
「手、洗ってくるからそこにいろ」
八王子くんはそう言って部屋を出た。
お尻丸出しなのが恥ずかしくて、そそくさと服を着る。
ベッドの上にいるのも悪いかなと思って、ソファに座ろうとしたけど、あまりに痛くて、僕はソファにうつ伏せで寝そべる。
行儀は悪いけど、背に腹は変えられない。
八王子くんが戻ってきた音がしたけど、僕はそのまま顔を上げなかった。
僕は悪くないもん。
「俺のこと、嫌いになった?」
八王子くんが言いながら、僕の上に乗っかってきた。
ちょっとお尻が痛いんだけど…
「嫌いに…、なれたらいいのに」
「…、なんで?」
八王子くんってとても鈍感なのか、あるいは不貞を気にしないタイプなのか…
「彼女がいたら、他の人とセックスしちゃダメなんだよ!
だから、僕はもう出来ない…」
言っちゃった…
これでもう、僕と八王子くんの関わりがゼロになるだろう…
僕はぎゅっと目を瞑って回答を待つ。
八王子くんは数秒無言だった。
「…、彼女?」
そう聞き返されて、僕はムッとする。
僕が知らないとでも思っているのだろうか。
「目黒さんでしょ!みんなが話してるの、流石の僕でも知ってるよ!」
「…、うるさい。大声出すな」
「なっ…」
これが冷静でいられるだろうか。
シラを切ろうとしているくせに。
「メグミはなんでもないよ。
まあ、好きだとは言われたけど、俺はなんとも思ってないし、付き合ってもない」
「…へ?」
「だから、2度とメグミの話すんな。
それとも、山路、惚れてんの?」
「僕は…、八王子くん以外を好きになれないよ」
と、僕は力無く返した。
全身から力が抜ける。
八王子くんとメグミさんは何もなかったんだ…
いや、メグミさんは好きみたいだけど、八王子くんにその気は無かった…
「ふーん。じゃあこの話は終わり」
そう言って、八王子くんは眠りについたみたい。
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