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11.Refusal~涙の理由
「前王は、身分の隔たりも超えて、それはとてもヘサーム殿のお母上様を大切になされました。そんなおふたりの間にお生まれになったのがヘサーム殿です。ですが、奥方様は重い病で亡くなり、前王と本妻の王女様の間にご子息がお生まれになりました。そのご子息が、ワーリー様でございます」
そこまで言うと、バシラさんは何かを考えるように、一度、口を閉ざした。
ほんの少しの間、沈黙が宿ったかと思うと、バシラさんは、ふたたび言葉を紡ぎはじめる。
「ワーリー様が正式に王位を継がれると、『才ある者を分け隔て無く昇格する』という自らがお決めになった方針で、ヘサーム殿は一般兵へと格下げになりました。ヘサーム殿は、病で倒れたお母上様のような目にあわせたくないと、貧しい人々を救うため、腕を磨き、王の利き腕ともなる兵士まで昇格なされたのです。このことは、ごく限られた者しか知らされていない、機密事項でございますが、実はヘサーム殿は、スラム街に水路を作る計画をなされておいでなのです。彼は、わたしたち貧しい庶民の味方なのです」
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