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5.Passion~アティファ
だったら……。
だったら、どうしてそう言わないんだろう。
『早く出て行け』って――。
『汚い顔なんか見たくない』って――。
好きじゃないなら、キスなんてしないで欲しかった……。
「そんなに……」
――嫌われているなんて、知らなかった。
「そんなにオレのことが嫌いなら、『守れない』なんてまどろっこしい言い方なんかやめろよ!」
胸が、痛い。
好きな人に軽蔑されるなんて……。
苦しいよ……。
悲しいよ……。
「ヘサームに好かれてるって勘違いしたオレが馬鹿じゃん。『誰にでも簡単に体を開くオレが気持ち悪い』って、そう言えばいいじゃん!!」
気がつけば、怪我人に向かって怒鳴っていた。
だけど今はヘサームが怪我人だと気遣うことができない。
心がズタズタに引き裂かれた今のオレには相手を気遣えるほどの余裕は残っていない。
「オレ、馬鹿みたいだ」
オレばっかり舞い上がっちゃってさ……。
ヘサームはもう、この恋に冷めてしまっていたのに……。
オレはなんで、ヘサームと両想いだって思ったんだろう。
状況はもう変わっているっていうのに、バシラさんやナジさんの言葉を信じていたなんて!!
「ほんと、馬鹿……」
気がつけば、オレの目から涙が流れていた。
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