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サブ垢バレてました

4  フェーズ開始の合図と共にフィールドを走り、目の前に現れる敵を得意な武器で倒していく。 「わ、わーっ!!待って待って!」 「いや、待つわけないでしょ」 「あーっ!当たんない!!オレ下手すぎ!」 「とか言いながら今2位じゃん」 「あ、ホントだ」  表示されてるキル数を見れば筬島のキャラは結構な数字になっていた。  緊張で体感がバグっていたようだ。 「そういえば…」 「ん?」  さらにキル数を伸ばそうと狼谷の声に耳を傾けながらも画面に集中する。 「乙女になっちゃったの?邑楽くん」 「ふぇ!?ああっ!」  狼谷の思いもよらない言葉に動揺しマウスを押してしまう。  見事に的は外れ、逆にキルされてしまった。  しかも相手は運悪くも狼谷が使ってるキャラ。  キャラクターコントロールもそうだが、エイムも良すぎる。  さっきの狼谷の言葉は聞き間違いだろうかとコメント欄に視線を向けた。 [え?] [ユウくん乙女だったか] [あー言ってた] [乙女なユウくんも好き]  違うらしい。自分の耳が正常だったのと聞き間違いではなかった事実に混乱する。 「ちょ、コメント早っ!」 「ははっ、こっちもなんかコメント早くなった」  次々敵を倒しながらも可笑しそうに狼谷は笑っていて、筬島の混乱は増すばかり。 「な、なん」 [こーれサブ垢バレてます]  チラッと視界に入ったコメントが、これが答えと言わんばかりに光って見えた。 「あ゛ー!え、サブ垢見ました!?」 「見た見た、てか、フォローしてるし」  イヤホンの向こうから聞こえる狼谷の楽しそうな声。  その声は悪戯を思いついた子供のように弾んでいる。 「そんなに俺の声好きなんだ」  今までにない、耳元で囁かれるような低音ボイス。  ゾクッと感じたことのない感覚が筬島の全身を走る。  耳が熱を持ったように熱くなった。 「ふぁ…っ」 [あえぐな] [えっど] [ユウくんの耳が妊娠しました]  一気に流れるコメントに、筬島の顔がかぁっと熱くなる。  感じてますと言わんばかりの声を出してしまった。  こんな声、当然ながら配信で出したことなどない。 「邑楽くん耳弱すぎない?」  くくっと、堪えるような笑いを狼谷が漏らす。 「だ、ちょ、えっ」 「いやーかわいいな」 「かわいくないですっ」  恥ずかしい声に顔は熱いし、エイムはずれるし、もう何に集中すればいいのかわからなくなる。  気づけば画面には終了の文字。 「あ……あぁ」 [エイムぶれぶれで草] [あえぐな] 「あえいでないから!」  思わずコメントにツッコミを入れると、狼谷が声を出して笑った。 「はっはっはっ!ほんとだよ、あえぐなよ」 「狼谷さんのせいですよ!順位も7位まで下がったし!…って7位!?」  2位だったのに一気に7位まで落ちた戦績に目を丸くする。  10位中の7位。次のマッチに響きそうな戦績だ。  なのに、もう耐えきれないとマイクの向こうでは狼谷が笑い続けている。 「はぁーっやっば…デビューして初めてここまで笑ったわ」 「オレはデビューして今いちばん恥ずかしいですっ」 「だろうねぇ。うちのコメントがえろいで埋まったわ」  思い出したのかまたくくっと笑っている。 「うぅ…もう忘れて」 「いやー、やっぱいいわ、邑楽くん」 「もう…ランクいきましょ!ランク!」  恥ずかしさから話題を変えようとゲーム画面を切り替えた。  ランクマッチを開き、待機画面になるが手持ち無沙汰でバナーを見返えす。 「はいはい…と、その前に」 「ん?」 「邑楽くん罰ゲームね」 「え?」  何のことわからず、間抜けな声が出た。  デスマで何か賭けてたか?と首を捻るもそんな話してなかったように思う。 [敬語使っちゃったね] [敬語やな] [罰ゲームきちゃー]  コメント欄に溢れる喜びの声に、そういえば…と記憶が蘇った。  熱を持った顔が、一気に冷える。 「ええ!?うそ!?敬語使ってた!?」 「何回か言ってたよ、混乱しながら」 「狼谷さんのせいじゃんっ」 「俺のせいでも敬語使ったのは邑楽くんじゃん。何にしようかなー」  そうだけど。そうだけども!と頭を抱えた。  配信活動始めてそう長くない期間、今まで何とか回避してきたが、先輩が受けてきた罰ゲームを思い出すだけで恐ろしくなる。  氷水、電気、激辛…配信者としてはおいしいのかもしれないが、痛いのは嫌だ。 「や、優しめで!優しめにして!」  楽しそうな狼谷の声にどんな罰ゲームを言われるのか筬島の声が震える。 [ユウは優しい方が好き、と] [さっきからなんだお前、煽ってんのか] 「煽ってないし!てかなんだ今日のコメ欄はっ」  いつもそこそこ揶揄われてる感はあったが、今日はいつにも増してリスナーの反応が楽しそうで、おもちゃにされてる感がすごい。 「優しくねぇ…じゃあ…」 「じゃあ?」 [じゃあ?] [なになに?] [えぐいの頼む]  コメント欄の方が楽しそうなのはなんなんだ、と軽くコメント欄を睨んだ。 「今度、遊び行こ」 「え!そんなんでいいの?全然行く!」  筬島の心配をよそに、狼谷からの案は予想外に易しいもので、二つ返事で返した。  易しいというより罰ゲームにすらなってない。  脅すように見せかけて親睦を深めようとしてくれたのか、優しいな、などと喜んだのも束の間。 「お、言ったね!じゃ、恐怖迷宮ね。××にあるテーマパークの」 「きょう……ぇ、ええ゛!?ムリ!ムリムリムリっ!!」  耳に入った言葉を口にする途中でそれが何なのか思い当たり、反射的に拒否の言葉が出た。 [おお!!いいぞ!] [狼谷ナイス!] [Vlogか?] 「たしか、お化け屋敷苦手だったよね」  ああ…と絶望の声をもらしながら筬島は初配信で自分が言ってたことを思い出す。  確かに苦手なものはホラーと言っていた。  しかもゲームもリアルも怖いものは無理だと。  お化け屋敷も当然そうだと。  お化け屋敷なんて小学生の頃行ったっきりトラウマで入ったことすらない。  アトラクションの前を通る時も目を逸らすくらいだ。  しっかり初配信チェックなさってる!と感心を覚えるところだろうが、それどころではない。 「か、狼谷さん…は、怖いのって…」 「ん?お化け屋敷は率先して入るタイプ」 「ぐっ……」 [ガチ罰ゲームじゃんw] [ご愁傷さま]  憐れむようなコメントが目につくが、楽しそうに草を生やしたコメントも混ざっている。 「うぅ……わかりました」 「よし!じゃランクしよーぜ」  嬉々とする狼谷を前に渋々了承した筬島だが、考えただけで涙が出てきそうだった。

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