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罰ゲームは絶対みたいです

5 「今日はこの辺にしとく?」 「そうだね!結構勝てたし」  時間が経つのはあっという間で、気づけば日付けも変わっている。  正直相性がいい。  狼谷は欲しい所でスキルを使ってくれるし、報告が的確なので、筬島もスキルの使いどころがわかりやすい。  勿論マッチしたチームメンバーにも恵まれたという事もあるが、阿吽の呼吸というのだろうか。  初めて一緒にしたとは思えない、まるで長年付き合ってきた相棒のようだった。  お陰で勝率も良く、もう少しでランクも上がれる。 「じゃ、ちょっと配信閉めてくる」 「はいよ、あ、罰ゲーム忘れんなよ」  テロン、と言い逃げるように狼谷が通話を抜けていく。 「忘れてたのにーっ」  ゲームに夢中過ぎて本当に忘れていたのに、と苦々しい気持ちになる。  なんならリスナーにも忘れて欲しいし、なかったことにして欲しい。 [途中リタイアもできるよ] [どんまい] [楽しみー]  だが嬉しそうなコメントの数々に筬島は無理だと悟る。  それはそうだろう。  邑楽ユウのリスナーは邑楽が弄られれば弄られるほど何故か喜ぶ人ばかりなのだ。 「仕方ない…まぁ今日ポイント盛れたし、楽しかったし、まぁまぁまぁ」  ポイント盛れたのも、楽しかったのも本当なのだから、文句はない。  ただ筬島は、心の底からお化け屋敷が嫌なだけなのだ。 [今日つよかった] [おもろかった] 「ほんと?楽しんでくれた?」  リスナーが楽しんでくれたのなら満足だと笑みを漏らした。 [狼谷さん初めて見たけどユウと相性いいなぁ] [楽しそうだった] 「楽しかった!狼谷さんと相性良かった?みんなもそう思う?」 [よかったよ!]  そう肯定して貰えるだけで嬉しくなる。  そう思っているのは自分だけじゃないのだと。  思わず顔がにやけてしまうが、画面に映っているキャラはいつもよりニコニコとしているだけだ。  こんな時バーチャルで良かったと思ってしまう。  こんなにやけ顔、配信に乗せられるわけない。 [前から仲良かったの?] [ユウから誘ったの?]  初コラボ、しかも配信で絡んだことがないこともあり、リスナーは興味津々といった様子。コメント欄が質問で埋まっていく。 「狼谷さんが誘ってくれたんだよね。じゃなかったらオレから声掛けらんないって」  新人から、しかも他事務所の先輩に声を掛けるのはハードルが高い。  慣れればそこまでないのだろうけど、事務所の先輩にもまだ絡んだことがない人が居るのだ。ハードルを高く感じても仕方ない。 [それはそう] [知ってる] 「おい!ひどいなお前ら。でもほんと狼谷さんが誘ってくれなかったらコラボ出来なかったろうし、感謝だなぁ」  これから長く活動を続けていけばFPSゲームをメインにしている者同士、いつかフルパを組んだりすることはあっただろうが、きっとフルパの中の一人で終わってしまっていただろう。  多人数の中人見知りを発動し、こんな風に気安く話したりは出来なかったはずだ。  自分の性格を考えると本当に感謝しかない。 [ハルトのイメージ変わった] [狼谷ってもっと言葉強いイメージだった] 「そうなの?」  当然だがまだ筬島が知らない一面があるようだ。  それにしてもリスナーはいろんな配信者をよく見ていると感心してしまう。 [次もある?] [またコラボして欲しい] 「ねー、オレももっと仲良くなりたいし、またコラボしたいなー…今度俺からも誘ってみよっかな」  今日の感じだと筬島から誘っても断られることはないと思うが、何せ初めて絡んだのだ。一気に距離を詰めて引かれるのだけは避けたい。 [その前に恐怖迷宮いけよ]  見たくなかった文字が目に入る。 「ぐっ……ほんっと行きたくない…けど、まぁね、しょうがない…よし、今日の配信はこの辺で、またね」  少し雑談が長くなってしまったが、終了をクリックし配信を閉じた。  はぁ…とため息を吐き、行きたくない行きたくないと頭を抱える。  通話アプリを見ると狼谷の名前の横にログイン中のマークがついていた。  配信終わったのかな?とチャットを送る。 【終わった?】  既読がつくと、テロンっと音ともにボイスチャットが始まった。 「お疲れ様」 「おつかれー」 「ほんと楽しかった!誘ってくれてありがと」 「こっちこそ、急だったのにありがと。またやろう」  心なしか狼谷の声色が明るい。  本当に楽しんでくれたんだろうと思うと筬島の声も明るくなる。 「ぜひぜひ!」 「その前に恐怖迷宮な」 「あぅ…」  楽しかった気持ちが一気に急降下していく。  そうだったそうだったそうだった…。 「ははっ、直近予定入ってて、来月末あたりどう?平日がいいなって思ってるんだけど」  これは確実に囲みに来ている。  もう後には引けないし、逃げられない。 「あー、ちょっと待って」  スマホでスケジュールを確認する。  大学はこれから急げば卒論も間に合うし、一日出掛けるくらいは問題ない。  案件も今のところ入ってる分は問題ない日程だ。  1月末なら大丈夫だろう。 「うん、大丈夫」 「じゃあ来月。楽しみだなー」  狼谷の嬉しそうな声に筬島は、しまった、と顔を顰める。  予定が合わないと言えばよかったかも知れない。 「オレは全然楽しみじゃないぃ」  狼谷との初コラボは楽しかったが、恐怖迷宮に行くことを考えるだけで気が遠くなりそうになった。

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