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待ち合わせ

  邑楽ユウ=筬島颯 狼谷ハルト=敷波和奏  7  待ち合わせの時間より少し前。  筬島は約束していた駅に着き、敷波に言われた改札前でLIMEを送った。 【着いた!】  一緒に今日の服装を伝えるのも忘れない。  すぐ連絡を返せるように、チラチラとスマホを見つつ周囲を見渡すが、オフで会うのは初めてなのでどの人が敷島かはわからない。  イカつい人が来たらどうしよう…などと考えてしまうが、見た目がどうであれ相手は敷波だ。  さほど心配することでは無い。  そう、相手は敷波なのだ。  ――やばい、また。  緊張とは違う、気恥ずかしいような感情が湧き上がる。 「颯くん?」  耳触りのいい低音がする方へ振り向く。  175cmある筬島とあまり変わらないか少し高いくらいの身長で、全身ダークカラーでまとまった服装は大人っぽい雰囲気を醸し出している。  キャップとマスクで顔の大半は隠れているが、見える目元だけでもわかる。  ――イケメンだ。イケメンが話しかけてきた。というか、名前を呼ばれた。  しかも聞き馴染みのある声だ。 「…和奏さん?」 「よかった、違ってたらどうしようかと思った」  安堵するように敷島が息をつく。 「え、カッコよすぎ」  思わず出た言葉に、敷島が一瞬キョトンとした顔を見せたあと破顔した。 「ははっ、ありがと。颯くんもイケメンって言われるでしょ」  その緩んだ目元に初めて会ったに関わらず、狼谷っぽいな、などと思ってしまう。 「オレは全然っ!」 「そう?まぁ、どっちかって言うとカワイイかな。」 「え?」 「さ、時間もあれだから行こっか」  言われた言葉を解する前に促され、敷波の隣に並ぶ。  しかし、その爪先が向かう方向は改札とは反対で。 「か…じゃなくて、和奏さん」 「ん?」 「改札こっちじゃない?」  ん?と首を傾げる所作さえモデルがとるポーズに見えてしまう。 「車の方が便利だから、車で行こ」 「え?」  そう言われるがまま連れられて行ったのは駅近くの駐車場。 「乗って」  黒いSUVが止まっており、敷波が運転席へと乗り込む。  筬島も促されるまま助手席へと座った。 「運転できるんだ!かっこよ」  内装もそうだが、運転席に座る姿が様になっている。  さっきからなんでもない仕草さえかっこよく見え、イケメンは何してもずるいな、なんて思った。 「運転好きだからね。颯くんは免許持ってないの?」 「一応取ったけど、全然運転してない。怖いも、ん!?」  徐ろにキャップとマスクが、外され隠れていた部分が露になる。 「ん?あ、颯くんもマスク外す?」  ――いやいやいや、待って!オレのマスクなんてどうでもいい。 「カッコよすぎでは!?」  正直人を顔で判断したことはない筬島だが、それでもなんで顔出しをしないV配信者をしてるのか疑問に思うレベルだ。  先輩配信者にも所謂イケメンに属する人はいるが、今まで見た中で断トツにかっこいいと断言出来る。 「そんなに?」 「そんなに!」 「ふっ、ありがと」 「っ」  一気に顔の熱が上がる。  いつもイヤホン越しで聞いてたあの吐息の漏れるような笑い方。  いつもこんな風に笑っていたのか。  その細まった目元にまた心臓が早鐘を打ち始める。  それがバレてしまわないよう、筬島はぎゅっと胸の辺りを握りしめた。

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