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甘えてもいい?

   9  罰ゲームのために態々ここまで来て、終わったらはい解散!とまでは思ってなかったが…何となくパーク内を見て回って帰るのかな、なんてドライなことを思っていた。  だが敷波はパーク内はパーク内として楽しむ気満々のようだ。  何となく大人っぽいイメージがあったが、意外と子どもっぽさもあるんだと、知らなかった一面に嬉しくなる。  …いや、罰ゲームを提案する時点で子どもっぽいのかもしれない。 「乗るっ!」  その後人気のジェットコースターをハシゴした後、遅めのランチを食べティーカップに乗ったが、これは失敗だった。  これに乗ると気持ちが幼少期に戻ってしまい、無駄にティーカップを回してしまうのだ。  ご飯を食べた後に乗るものじゃない。  乗り終わったあとの具合の悪さといったら…。  2人で近くのベンチに座り込み、顔を見合わせる。  お互いの顔色の悪さにぷッと吹き出してしまった。  いい歳して何してんだと思わずにいられない。  暖かい飲み物で落ち着き、園内を歩いていると観覧車が目に付いた。  絶叫系は乗ったし、遊園地といえば!の定番。 「和奏さん…アレっ!観覧車乗ろ!」  興奮し少し勢いが過ぎたかもしれない。  敷波は一瞬目を見開いて驚いた表情を見せた。  が、すぐにその目が弧を描く。 「いいね」  閉園時間が近づいてることもあってか、絶叫系に並ぶ列は多いが、観覧車はそこそこの待ち時間で順番が回ってきた。 「透明のゴンドラでも大丈夫ですか?」 「はい。あ、颯くんは大丈夫?」 「うん」 「足元気をつけてお乗り下さい」  スタッフに案内され透明のゴンドラへと乗り込む。 「オレ初めて乗った!」 「俺も」  2人乗りのゴンドラは並んで座るようになっており、どう見てもカップル向きの仕様で、男友達と乗るには些かファンシーな作りだ。  しかも175オーバーの男二人で乗るには結構な密着感で。 「狭くない?」 「大丈夫。あ、ハートかわいい」  閉まった扉がハート模様になっており、益々カップル感が強い。  少しずつ動くゴンドラが徐々に地上から離れていく。  並んでる時は気にならなかったが、眼下にイルミネーションが灯り始めていた。 「きれい…」 「おー、たしかに」 「恐怖迷宮はめっちゃ怖かったけど、和奏さんと来れてよかった」  来るまでは鬱々としていたが、恐怖迷宮のことだけを除けば楽しい思い出しかない。  ジッと敷波の目を見つめ感謝を伝える。 「怖い思いだけして解散とか嫌だったし、絶対いい思い出にして欲しかったから」  そう微笑む敷波の目が、優しく愛しむように弧を描いていた。  敷波なりの気遣いが嬉しいはずなのに、その視線の熱さに勘違いしてしまいそうになる。  その視線に、友情以外の意味が込められているのではないか、と。 「め、めっちゃいい思い出になった!」  そんな勘違いも甚だしい考えを振り切るように視線を外へと向けた。 「よかった」  敷波が安堵の声を漏らす。  筬島も倣うように頷いた。 「ほんと…よかった」  嬉しいような、照れくさいような、そんなじんわりとした雰囲気に浸っていると、少しづつ地上が近づいてくる。  一周なんてあっという間だ。 「もう終わりか…」  一日が楽しかったせいで、余計寂しさを感じる。  帰ったらまた通話だけの日々。  別にそれが嫌な訳じゃない。  都合さえ合えばいつでも話せるし、時間を気にしなくていい。  ゲームだって一緒に出来る。  なのに、こうして見る表情は想像することしか出来ないんだ。  徐々に終わりに向かっているような気になり、心の中が悲哀に満ちる。  誰と出かけてもここまで感じることはなかったのに。  チラリと敷波に視線を向けた。 「また一緒に出掛けよう。ここでもいいし、別のとこでもいいし」  その視線は真っ直ぐ外に向けられている。 「え…いいの?」  もしかしたら寂しがってる雰囲気を察したのかもしれない。  優し過ぎないだろうか。  敷波から見れば筬島は一配信者仲間に過ぎない。  事務所や同期など、ほかに優先すべき人がいるはずなのに。 「颯くんと一緒にいると落ち着くんだよね。颯くんさえ良ければこれからも仲良くして欲しい。もちろん配信でも」  甘えてもいいんだろうか。  デビューして同期とは二人三脚でやっていくのだと思っていたが、その同期とも噛み合わず中途半端な関係になっている。  不安がなかった訳じゃない。  寧ろ毎日が心配で不安で、それでも正解が分からないまま配信を続けてきた。  まだ駆け出しで弱音を吐くには早すぎると分かっていても、誰かに不安だと漏らしたかった。  大丈夫だって言って欲しかった。  それぞれの立場もあるし、おんぶに抱っこなんて考えてない。  ただ、今の筬島には敷波の言葉だけで十分だった。 「…うれしい」  目頭がじんわりと熱くなる。  何とか紡いだ言葉は震えていたかもしれない。 「お疲れ様でしたー足元に気をつけてお降り下さい」  ガチャッという扉が開く音とともにスタッフの声。 「ん」  敷波が先に降り、続いて降りようとする筬島の手を取る。 「ありがと」  スマートにこなす敷波に慣れてるんだろうななんて思ってしまう。  ――恋人とか…いるんだろうな。  筬島にも過去に付き合った人の1人や2人いるが、敷波に恋人がいると思うとなんだかモヤッとした感情がうまれた。 「そろそろ帰ろうか。折角だし家まで送ってくよ」  観覧車を降り、ゲートの方へと歩いていく。 「申し訳ないから駅で大丈夫」  さっきまで上がっていた気持ちが急降下していたが、それを悟られたくなくて笑顔を貼り付け答えた。  甘えすぎたくないと思ったのも本当だ。 「帰って配信は?するなら甘えちゃいな」  ぎゅっと心臓が締め付けられる。 「男前がすぎる…っ」  ははっといつもの声で笑われてしまった。  自分にだけじゃない。  きっと誰にでもこんなに優しいのだろう。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 「了解」  そう微笑む敷波はどこか嬉しそうだった。
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