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*幕間 敷波和奏という男
帰りの車の中。
元々送るつもりではあったが、観覧車に乗ったあとから表情が曇ったように感じ、尚更1人にしたくなかった。
何か気に障ることでも言ってしまったかと思ったが、その後は笑顔を見せたりしたので疲れてるだけだったのだろうか?
確かにいきなりテーマパークは強引すぎた気もする。
配信者によっては全く外出しない人も多いし、敷波自身もそっち側だ。
しかも通話していたとはいえ事務所直属の先輩後輩でもないし、対面で会うのは初だ。
気疲れしたとも考えられる。
なのに、家まで送るとなるとさすがにやり過ぎだろうか。
だが、今更「やっぱり駅で」とは言えないし、言いたくない。
できるなら、時間ギリギリまで一緒に居たいのだ。
チラッと横目で見れば、いつもの筬島に戻っているように見える。
やはり疲れてしまっただけだろうか。
「颯くんって家どの辺り?」
「あ、〇〇区」
「え、○○区なんだ。俺も」
暇さえあれば通話していたが、当然家までは知らない。
そういえば、と家を聞けばよく知る区名で目を丸くした。
配信業をしていればそう出歩くこともないが、事務所への利便性を考えて住み始めた地域はたしかに若い人が多かった気がする。
親子連れが多い住宅街という訳でもないので、単身者や大学生が多いのかも知れない。
「そうなの?××駅近いからよく使うよ」
「え、俺も」
最寄り駅も近いとなると、益々生活圏が重なってる可能性がある。
と言ってもライフサイクルが重ならないと会うこともないのだが。
「めっちゃ近いじゃん」
「近くに公園あってさ」
「え、オレんちの近くにもある!」
場所を擦り合わせていくうちにおやおやっと眉根を寄せた。
駅も近くて公園も近い。
マンション密集地ではあるので、さすがにそこまでは…と思いつつも敷波は尋ねた。
「…×××ってマンションじゃないよね?」
「え!?なんでわかったの!?」
「はははっ…マジか、すげぇ」
本当にまさか過ぎて口角が上がる。
こんな奇跡みたいな偶然があるとは。
「え?」
「俺もそこ」
「え?……ええっ!?」
筬島が目が飛び出そうなほどの顔で驚きを表している。
「ははっ!ほんと、すっげぇ偶然」
本当に偶然だ。
邑楽ユウを知ったのも偶然だったし、こうしてオフで会うことになったの…は自分が言い出したことだが、家を知り、剰え同じマンション。
これだけ近ければ社交辞令でなく、次も誘っていいだろうか。
もちろん筬島が良ければ、が前提だが。
また次も会えるかもしれない。
その可能性に敷波は、道中緩む頬を隠すことが出来ずにいた。
マンションの駐車場に車を停め、エントランスを抜ける。
エレベーターに乗り込むと、筬島がボタンを押した。
「和奏さんは?」
「8」
――本当にここに住んでるんだ。
慣れた動作にそんなことを思ってしまう。
「今日はほんとにありがと。運転疲れたよね」
気を遣うような表情で筬島が見つめてくる。
筬島の方こそ疲れただろうに、きっとこの後配信もするんだろう。
時々配信を見ていたが、言ったからには行かなきゃいけない、やらなきゃいけない。そんな責任感が強いように思う。
いつか自分で自分を追い詰めてしまわないか心配なところだ。
「全然。運転好きだし、ふらっとドライブするの好きだから」
「でも申し訳ないし、今度何かお礼させて」
「ん…考えとく」
ゆっくり微笑んで返す。
正直これと言って考えつかないが、ここで断ると筬島が気にしてしまう気がした。
5と表示された階でエレベーターが止まると、ゆっくり扉が開いた。
エレベーターから1歩踏み出ると筬島が振り返った。
軽く片手を上げ、笑顔を浮かべている。
「ほんとにありがと!またね」
「また」
扉が閉じるまで手を振り続ける筬島に敷波も手を上げ答えた。
再びエレベーターは動き出し、8階で止まる。
自室に着くとバッグを降ろしながら、風呂のスイッチを押した。
リビングのイスに座りバッグからスマホを取り出すと、画面をタッチし今日撮ったばかりの写真を眺める。
出口に向かう途中イルミネーションの前で撮った写真だ。
写真なんて滅多なことがない限り撮らないが、敷波の方から一緒に撮ろうと声をかけた。
今日の日を忘れたくなかったのだ。
画面に写る筬島は照れながらも笑顔を見せている。
あまり写真を撮らないと言っていたから慣れていないせいだろう。
そういう敷波も滅多に写真は撮らない。
が、珍しく写った自身は筬島の隣で嬉しそうだ。
たった一枚の写真を見ていると音楽が鳴り、お湯が溜まったことを知らせる。
名残惜しくスマホを置くと、シャワーで汗を流し、ゆったりと浴槽に浸かった。
――あんなに可愛いなんて聞いてない。ほんと聞いてない。
通話していた時も思ったが、初めは人見知りっぽいが慣れると素直で愛想があり、人好きのするタイプだ。
あの素直さは特に年上から好まれやすいだろう。
謙遜していたが、大学でもモテてるはずだ。
敷波の名誉のために言えば、決して出会い厨というわけじゃない。
配信仲間として仲良くなりたいと思ったし、筬島といると落ち着くのも本心だが、決して出会い厨ではない。
確かに過去にいた彼女との出会いもオンラインゲームが切っ掛けだったが、何度も言うように、決して出会い厨では無い。
なんなら、元カノと付き合ったことが切っ掛けで自身をアセクシャルな人間だと思っていたほどだ。
今日一日を振り返り、筬島のコロコロと変わる表情を思い出す。
恐怖迷宮で服を掴まれ、繋いだ手の感触を思い出すだけで自然と下半身が熱を持ち始めた。
視線を落とせば、陰茎がゆるりと頭を擡げている。
「はっ」
なにがアセクシャルだ。
ゴリッゴリに性欲があるじゃないか。
筬島と出会ってから愛しさだって感じている。
勢いで付き合った感がある元カノが悪かったわけじゃない。
筬島だから愛しく感じるのだ。
先端を指で摘み擦る。
空いた手で陰嚢を包むと軽く揺すった。
はぁ…と息が漏れる。
クニクニと亀頭を刺激すると、陰嚢がずっしりと重みを増した。
自分で言うのもなんだが、人より大きめのそれが怒張しビクビクッと揺れる。
「あっつ…」
湯船から出ると浴槽のふちに腰掛けた。
腹につきそうなほど反り返った陰茎を握り、上下に擦りながら陰嚢を揉み込む。
脳裏に浮かぶのは今日記憶に収めたばかりの筬島。
ニコニコと笑った顔。
怖さのあまり引きつった顔。
薄ら涙を浮かべた顔…は本当にやばかった。
観覧車でキラキラと目を輝かせたその顔は、観覧車とイルミネーションの灯りで余計に煌めいて見えた。
和奏さん、和奏さんと呼ぶ声が脳内で何度もリピートされる。
思い出すだけで手の動きが早くなり、先端からじわりと透明の液が滲んだ。
下腹部から欲が競り上がってくるのが分かる。
先走りを指に絡め、先端を親指で擦りながら竿を扱く力を強めた。
色濃く反り返った竿の部分には浮き出た血管が這い、絶頂はまだかと張りつめている。
『ふぁ…』
「うっ…く、」
初コラボの時筬島が漏らした喘ぎのような声を思い出すと、一気に熱が上がりビュクビュクッと白濁が飛び出した。
ビクッビクッッと腹筋に力が入る。
手の平と浴室の床を汚す敷波の欲。
あの声は正直やばかった。
何度も何度もあの部分を見返しては自身が熱くなるのを感じた。
切り抜きも何本か上がっているし、エゴサしてみればSNSで呟いてる人が何人もいた。
自分以外があの声を聞いたかと思うと嫉妬で怒りを覚えるが、あの声にはあてられて当然とも思う。
今日筬島に会ってみて、いつも通話の時どんな表情だったのか容易に想像出来た。
それ故に、恐怖迷宮から出た直後の涙で潤んだ顔は本当にやばかった。
思わず声に出てしまったくらいだ。
あの表情と配信の時の声が頭の中で容易にリンクする。
「やば…」
当然と言わんばかりに再び下半身に熱が溜まり始める。
「ふはっ……こんなに性欲あったのか…」
初めての感覚に呆れながらも敷波は、素直に自身の熱へと手を伸ばした。
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