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18 アフターデザートワイン *R18
ソファへ手をひかれ、押し倒された。
男に男が押し倒されている何とも言えない構図。
「あ、あの……」
「なんだ。血が減って気を失う場合があるから、このほうが良いだろう」
そう説明されると、納得するしかない……か?
堂々と俺の顔を覗き込む金色の瞳に、やましさは感じられない。相手にとってはただの食事なのだから当たり前だ。俺だけが変に意識してどぎまぎしている。
早く終わらせよう。
腹をくくり、彼がやりやすいよう横を向いて首を差し出す。
すると、首筋を容赦なく噛まれた。
「痛 っ……!」
(う……この感じ、前と同じだ。やっぱり、痛いだけじゃない……っ)
噛まれた痛みがみるみる心地良い熱に変わっていく。
牙が離れたそこから自分の生温かい血があふれ、鎖骨へ伝い落ちる。
傷口に彼の唇が触れた。そっと吸われると甘やかな快感に身を固くしてしまう。
身体を預けてしまえば楽だとわかっているが、羞恥心がそれを許さない。
「っ、ぅ」
痛みと快感を意識するほど、自分の心臓の音が大きくなる。
「おまえの血は特別だな。吸い尽くしたくなる」
「ほどほどにしてくれよ……」
「もちろんだ」
血を搾るように首筋を甘噛みされると、じんと頭が痺れる。
変な声を漏らしそうになり、とっさに自分の手を噛んだ。
「ふ……っ! ふぅっ……!」
彼の口に含められた血が、こくりと喉に落ちる音がした。
肌に食い込んだ牙はまだ離れることなく、物欲しげに汗ばんだ皮膚を掻く。
俺は落ち着きのない鼓動をさらに激しくさせて、傷口から彼にとっての蜜を湧きたたせる。
「っ…………!」
じっくりと血を味わわれ、意識も身体もどうしようもなく蕩けた。
脚が落ち着かなくてモジモジしてしまう。
こんなにあっけなくズボンの中心を膨らませていることを、気付かれたくなかった。
が、直接触られてしまっては言い訳のしようもない。
ジェードは俺の状態を理解して、前と同じように勃起を慰めようとする。
慌てて彼の胸を押し、遠ざけようとした。
「そこまでは……いいって……!」
「面倒を見るくらい大したことはない。変にストレスを溜めて不味くなられるほうが困る」
「な、なんなら自分でできるから」
「私のこれは下手か?」
「そんっ、そんな話はしてな、あ、ぁあ!」
布越しに張り詰めた性器を握られ、ゆるやかに扱かれて腰が浮く。
触りたいのを我慢していたほど限界が近かったから、ちょっとした刺激で出してしまうかと思った。
快楽に流されそうになるも気を強く持つ。
これ以上、情けない思いはさせられたくない。
なんとかやめさせたくて言葉を続けた。
「こんなことしてもっ、楽しくないだろ……!!」
「そう思うか?」
手首をつかまれ、ジェードの下腹のあたりへ引き寄せられた。
指先が彼の脚の付け根に触れる。
布越しに、明らかに勃起した性器の感触があった。
「言っただろう。おまえの血は特別だと。美味いだけじゃない。タチが悪いぞ」
「ヒッ……ヒェッ……」
「みなまで言わせたのはおまえだ」
ジェードが腰ベルトを外し、下着ごとズボンをわずかに下げると怒張したそれがまろび出る。
(でっ……か)
体格に見合う長大なそれにドン引きしてしまう。いっそギャグだろ。
ソファで仰向けになる俺の片脚を持ち上げ、脚と脚の間に割り入られた。下着とズボンを足首まで下ろされる。
なんで?
「ちょっ……ちょっと、待ってくれ、まさか、そんなまさかだよな?」
「おまえもこう だし、理にかなっていると思ったが……イヤか?」
じっと見つめられてたじろいだ。
こいつ、この整った顔で何人落としてきたんだ。
吸血の作用と、見惚れるほどのまなざしはまさに魔性すぎる。
「イヤもなにも、俺にそんな趣味は」
視界の端で黒い霧が揺らぐ。彼の手の中に親指サイズの小瓶があった。中には変な液体が入っている。
フタが開くと、ふわりと花の匂いがした。
ジェードは小瓶の中身を手のひらに垂らし、指になじませていく。
その液体はとろっとしていて油っぽい。香油……ってやつか?
イヤな予感は無事に的中する。
彼は俺の脚を押し上げて尻の位置を高くすると、そのとろみをまとった手で触ってきた。
指先が後穴に当たる。
「ぎゃああ! どこ触ってんだ!」
返事などなく、指をねじ込まれて絶叫する。
「ウワ────ッ!!」
「静かにできないのか」
「だ、だ、だって、これ、ゆ、ゆ、ゆび」
「すぐに挿入 て構わなかったのか?」
全力で首を左右に振る。
そんなことされたら痔の向こう側に行ってしまう。
■
「ふ──っ、ふ──っ……、ぅ、うう……!」
両腕で顔を覆って歯を食いしばり、なぜか大人しく尻をほぐされていた。
肉体的につらくなくても、心がイヤなら拒否すればいいだけの話だとわかってはいる。
けれど思ってしまったのだ。
──そもそもこれって、拒否権が俺にあるのか?
居候で、なにもかもに金を出してもらっていて、彼に見捨てられたらこの世界では生きていけないのに。
部屋を借りたろう、衣服や食事を与えられたろう、さんざん助けてもらったろう。
恩があるならば。……なんて、ジェードは一言も発していない。
俺の負い目の問題だ。
オフィスで死ぬときでさえしなかったのに、神に祈った。尻の無事を。
にちにちにち。
いやらしい音が聞こえてくる。
継続して感じ取る下肢の感覚に、耳まで真っ赤になっていた。
俺の怯えが伝わっていたのか、それとも血を美味しく頂くためなのか、丁寧に丁寧に時間をかけられている。
おかげで指の本数を増やされてもまったく痛くない。それがいっそつらい。
後ろで感じることなんかないと思っていたのに。
丁寧すぎるほどの前戯で、下半身から汲み上げる感覚はただの違和感から悩ましいそれに進化してしまっている。
俺がずっと黙っているからいけないのか? ジェードから見た俺は死後硬直でカチカチのシカとかイノシシに見えるのだろうか?
もういい。もういいって。こんなのは生殺しだ。
永遠のような時間を耐えていると、ようやく指が抜かれた。
まったく違う大きさのものがそこに押し当てられる。
ほぐれきったそこがヒクついたのが自分でもわかったし、彼にも伝わっただろう。
俺の性器は情けないくらい大量の我慢汁を垂れ流している。
乗り気ではない態度をしながらも、早くイかせてほしくて、全身で彼を欲してしまっていた。
けれど、いざそのときになると、怖気 づく。
「やっ、やっぱりちょっと待っ……」
「悪いが私が限界だ」
そうだった。彼も俺の血でキマってるんだった。
有無を言わせずに彼が俺の中に入ってくる。
「──っあぁああ!」
謎の潤滑剤のぬるつきを借りてもやっぱりキツい。だからこそ彼の性器で自分のそこがこじあけられる感覚を、生々しくはっきりと感じ取った。
びゅっ、びゅるっ。自分が目を回しながら射精していることに気付いたが、もう恥じらう余裕もない。
不愉快なはずの侵略に対し、時間をかけてほどかれた身体は強烈な快感しか拾っていなかった。
(イっ…てる……っ? なん、で……っあ、ぁぁっ……ぁっ……、い、いれ、られて……き、きもち……いい……っ)
両手で腰をつかまれた。その力強さにジェードの余裕のなさを感じて、さらに薄ら怖くなる。
彼は身体をより密着させようとしている。それはつまり。
「な……あっ、もう入ってるんだよなっ、……これっ?」
「先のほうはな」
「~~~~あ゛ぁああぁぁあっ!?」
力強く押し込まれ、彼の腰が俺の尻に当たる。腹の奥まで串刺しにされたような圧迫感にのけぞりながら悶えた。
(ジェードの……が、ナカにある感じ、生々し……っ……。これ……っ内臓ぜんぶ……押し上げられてるみたいで……っ息の仕方忘れる゛っ……)
俺が落ち着くのを待っているのか、彼は挿入したままじっとしていた。
「はっ……はっ……、っ……、ぁっ……」
惚けたまま彼を見る。
……いつもの冷静な彼に見えるが、金色の瞳の奥が欲望の炎でギラついていた。
飢えた獣のような目を、彼のような男でもするんだな。
「ハヤトキ、噛むぞ」
いまさら聞かずとも、好きにしてくれ。
上半身を抱き寄せられた。
脱力して身を任せれば、頭が後ろに反って喉が無防備になる。
首に彼の熱い吐息がかかってゾクゾクした。
首筋の出血はとうに止まって乾きつつある。
同じような箇所に噛み付かれ、さっきよりも強く牙が食い込んだ。
「は、ぁあ、あ……っ! い、っ……ぁっ……!」
肉を食いちぎられるかと思った。
どくどくとあふれる血をすすられ、ピストンが始まる。
揺さぶられるほど全身を巡る血が快楽で煮えた。心臓が溶けそうだ。
絶頂直前の気持ち良さがずっと続いている。
そんな俺の蕩けた血を、ジェードが大切そうに飲み下していく。
「あっ、あぁあっ! ぃ゛、あっ、あっ、ジェードっ、ぁっ、あ゛っ──~~~~~ッ!」
彼が一回イくまでに、何度イっただろう。
初めて自分の精液を顔に浴びた。こんなに激しい経験はしたことがない。
彼が満足して接合が解かれたときは、ギリギリ意識を失う直前だった。目をつむったら終わりだ。
「はぁっ……、……っ、ぁ……」
「すまない、美味かったぞ」
"ごちそうさま"とばかりにそう言われても嬉しくない。が、体力をここまで消耗させて申し訳なく思っているのは伝わってきた。
返事をしてあげたかったが、息をするので精いっぱいで声が出ない。
■
自室へ運ばれ、ベッドに横たえられた。
俺が一人になりたがっていることを口数の少なさから察したらしい。ジェードは黙って部屋から出ていってくれた。
静けさに包まれて、さっきまでがいかに騒がしかったか――主に自分の声で――を自覚してしまう。
「うぐ……、ぐぐ……」
軋む身体を丸めて縮こまる。
羞恥で熱くてたまらない顔を両手で覆い、低く唸 った。
気持ち良かった。
だから最後まで許してしまった。
バカ。アホ。そんな趣味ないはずだろ。
吸血による発情のせいなのか、なんなのか、わかりようもない。
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