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相関 (1)

 Southboundが主に路上ライブを行う駅前大通り沿いにある広場から程近い場所で南尚行は働いている。  一階は全国チェーンを展開しているカフェダイニングで、店内の階段を降りた地下一階はレコードやCD、バンドTシャツや音楽関連の雑貨類を取り扱うコラボショップになっている。  二年程前から尚行はそのショップの店長を任されていた。 「……おはようございます」  午前九時十五分、大学生アルバイトの吉岡聡子は出勤するなり尚行を見て目を丸くした。 「おー、おはよ〜」  気怠げに返事をした尚行とは一年以上一緒に働いているが、聡子より先に尚行が出勤していたのは、棚卸などの日以外では今日が初めてだ。 「今日って何かありました?」 「ん?何かって?」 「いえ、店長がもう出勤してるから」 「あぁ、たまにはね」  朝起きるのが苦手と公言している尚行は早番の日はだいたい始業時間の九時半ギリギリに出勤する。そもそも少し前まではほとんど早番勤務は無かった。それが先月くらいから一週間に一度、主に金曜か土曜日に早番を入れるようになった。その理由を、尚行本人からはっきり聞いたわけではないが聡子は何となく察している。 「やっぱり起こしてくれる人がいると違いますねぇ〜」  聡子がそう言うと、尚行は目を細めて笑う。   「まあね、おかげでだいぶ健康体になった気がするよ」  三十過ぎでも誰から見ても整った顔立ちの尚行に不適な笑みと得意の流し目を向けられると無条件にどぎまぎしてしまう。しかも今朝はまだ僅かに眠そうな顔をしているせいで余計に色気が増している気がする。  聡子は同じ大学に付き合っている相手もいるし、十歳年上は守備範囲外で尚行に対しても恋愛感情があるわけではなかったが、それでも尚行が相手ではこうして時々ついうっかり見惚れてしまうことがある。  それに、聡子のようなかなり年下の大学生が相手でも、反対に年配相手でも誰に対しても、下手に誤魔化したり取り繕ったりしないところが信用出来ると一緒に働く人からの信頼は意外にも厚く、そしてその姿勢は接客にも表れていてお客様からも評判も元々良い。  そこへどうやら最近良い人が出来て健康的な生活を送っているようで、以前と比べて明らかに肌や髪の毛に艶が増した。おかげで益々尚行のファンは増えるだろう。  尚行の恋人には悪いが、店の売上貢献のためにもこの調子で尚行をどんどん磨き上げて欲しいと、聡子は密かに願っていた。  

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