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迷走 (5)

「いえ、知らないならいいんです。なんとなく、ミュージシャン同士って横の繋がりとか強そうなイメージあったから、知ってるのかなって思っただけで」  確かにミュージシャンといえば酒の席等で輪を広げて行くイメージが昔からあったし、実際悠臣も何度かそういう場には行ったことはある。 「その人がどの程度のギタリストだったか知らないけど、俺はインディーズバンドのベースだったから、一見同じミュージシャンでも普段活動してるフィールドも全然違うし、当時同じようなインディーズバンド界隈の知り合いは勿論いたけど、スタジオミュージシャンの知り合いはいなかったな」 「そうなんですね、……じゃあ、尚のことも、知らなかったんですね」 「え?どういう意味?」 「尚が東京にいた頃から知ってたわけじゃないんですよね」 「……東京にいたの?あいつ」 「……はい」  尚行がSouthboundの前に何をやっていたのか、興味が無かったわけではないが他人の過去を詮索するには自分の過去も晒さないとフェアじゃない気がして、自身の過去に触れられたくなかった悠臣は尚行に過去のキャリアを尋ねたことがなかった。それでもまさか東京にいた時期があったとは想像もしていなかったし、尚行からそれらしい話を聞いたことも無い。 「そうなんだ、それは、ギタリストとして?」  高校卒業後の進路が地元の音楽の専門学校だというのは以前聞いて知っている。だとすればその後に東京に行ったということだろうか。 「それが、最初はそうじゃなかったんですけど……」  どんどん歯切れが悪くなっていく莉子の様子から何か事情があるのだと察する。 「もしかして、さっき言ってたその、是永とかいうギタリストと関係ある?」  その問い掛けに莉子が僅かに顔を引き攣らせたのを悠臣は見逃さなかった。 「だから東京でバンドやってた俺に知ってるか、聞いてみたかったんだ」 「……やっぱり、不自然でしたよね。でも、どうしても確認しておきたかったから」  何か事情があるのだろう。それも、莉子では無く、尚行絡みで。  必要以上に追及しない方が良い、知らない方が良い事だって世の中には沢山ある。悠臣の頭の中では繰り返し警告音が流れているが、同時に尚行が時折見せる寂しげな表情を思い出して、それが莉子が匂わせている過去と何らかの関係があるのだとしたら、悠臣は尚行の過去を知りたいと思った。  尚行をもっとちゃんと理解してやりたい。
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