41 / 110

悔悟 (7)

『東京に戻ることになったから……』  出逢ってから一年、そろそろだと思っていた。だけど、離れるなんて考えてもいなかったから、 『尚行、俺と一緒に行こう』  そう言われて、迷いもしなかった。 『一緒にステージに立って、お前のギターをもっとたくさんの人に聴いて貰おう』  音楽業界で裏方として生きていくつもりだった俺をステージに引っ張り上げたのはそんな気障ったらしくも何気ない一言で、だけど理由なんて本当は何でも良かった。  あの人の隣に居られるなら、居場所なんて何処でも良かった。  あの人が俺のギターの音を欲してくれるなら、それだけが俺がギターを弾く理由だった……。  暗闇の中、一人静かに目を覚ました尚行は、夢か現実か、判然としないままゆっくりとあたりを見渡して、ここが自分の家の寝室だと認識すると、どうして、どうやって帰って来たのか、ようやく全てが繋がった。  そしてつい今しがた見ていたらしい夢の内容に意識が向く。    ――なんで今更あの頃の夢なんか、……つーか今何時だ?  横になったまま手探りでスマートフォンを探すが、いつも置いてある枕元にはない。窓の向こうは真っ暗なのでまだ夜が明けていないのは確かだ。  身体を起こして立ち上がる前に足元を確かめる。店で倒れた時は体中力が入らなくて歩くのもやっとだったが、今は何とか歩けそうだ。それでも念のためゆっくりとした動作で歩き出し、寝室のドアを開けるとリビングの明るさに目が慣れなくて尚行は思わず顔を顰めた。 「起きてきて大丈夫なのか?」  キッチンの換気扇の下で煙草を吸っていた悠臣が尚行に気付き、すぐさま声を掛けると尚行は驚いた顔を向けた。 「……え、悠臣?……何で?」  寝室で一人目を覚ましてから何の物音も聞こえなかったので家の中に誰かがいるなんて思ってもいなかった上に、それが悠臣で尚行は動揺を隠せない。

ともだちにシェアしよう!