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悔悟 (8)

「あぁ、お前が倒れたって聞いて、後を頼まれたから」  煙草の火を消しながら悠臣が落ち着いた声で答える。 「……そう」  気のない返事をしてから尚行は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して勢い良く飲んだ。 「尚、倒れたばっかりなんだから、もう少し横になっとけよ。腹減ったなら何か用意するし」  想像していたよりも普通に会話が出来ていることに尚行は安堵したが、それでもやっぱりまだ気まずさは拭いきれず悠臣の顔を見れない。   「平気だって。倒れたって言ってもちょっと眩暈がしてよろけただけだし、あいつら大袈裟なんだよ」 「それでも万が一ってこともあるし、週明けに念のためちゃんと病院で診て貰った方がいい」 「必要ねぇよ、いっぱい寝たからもう大丈夫」 「わからないだろ!お前は元々ずっと不摂生してきた身だし、まだ若いからって無理してたらいつか取り返しのつかないことになるかもしれない。お前までそんなことになったら、今度こそ俺は、もう……」  声を詰まらせながらそう言う悠臣に驚いて尚行はようやく悠臣を見た。 「悠臣……?」 「……悪い、何でもない」  呟くように言うと悠臣は尚行に背を向けた。その背中はまだ微かに震えているように見える。  戸惑いつつも尚行は悠臣のそばに行き、背中にそっと触れると優しく摩った。 「悠臣がそれで安心するなら病院でも何でもちゃんと行く。だから落ち着いて、ちょっと話しよう」  真剣な表情の尚行に促され無言のまま悠臣はダイニングテーブルの椅子に座る。 「何か飲む?」 「……いや、俺はいい」  テーブルに両肘を付き頭を抱えて苦しそうに何度も深呼吸をする悠臣を見ていられなくて目を逸らしたかったが、尚行は意を決して悠臣の正面に座る。いらないと言われたが冷蔵庫からミネラルウォーターをもう一本取り出し悠臣の前にそっと置いた。 「一応言っとくけど、マジでもうかなり回復してるから。今週仕事が忙しかったり、なのにスタジオ入ったりしてあんまり寝てなかったから、そのせいだと思う。心配かけて、ごめん」

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