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悔悟 (9)
一度言葉を区切ると尚行は気まずそうに顔を顰める。珍しく殊勝な態度の尚行を前にして悠臣は少し落ち着きを取り戻した。
「……つーか、悠臣に無理させてる俺が一ヶ月持たないとか、ダサ過ぎて絶対知られたくなかったのに、誰に聞いたんだよ」
「あぁ、夕方近所でたまたま莉子さんと会って、少し話してた時に啓太くんから莉子さんに電話があったから」
「……は?莉子と会ってたの?」
目を丸くしてから尚行は不機嫌を露わに眉間に皺を寄せる。
「いや、近所のいつものスーパーに行ったら本当にたまたま会って……」
啓太にも弄られたようなやましい関係は一切無いし、事実をありのままを話せば良いのに、莉子と話した内容を思い出すと後ろめたさから思わず言葉に詰まる。
「何の話した?」
そして勘の鋭い尚行が見逃してくれるはずもない。
「……尚の、昔の話」
「やっぱり、莉子のやつ勝手に喋りやがって」
案の定尚行の怒りは莉子に向けられた。
「俺が、教えて欲しいって無理言ったんだ。だから、莉子さんは悪くないから」
「わざわざ話すことでもないと思ってたから言わなかっただけで、知られたくなかったわけじゃないから別にいいよ。だけどまだなんか気になることあれば莉子じゃなくて俺に直接聞いて。……それから、悠臣も何かあるなら、話して欲しい。……どうしても言いたくないなら無理にとは言わないけど」
尚行の真剣な表情と真っ直ぐな言葉を受けて、悠臣は歩に言われた言葉を思い出した。
――二人はもう少し話をした方が良い――
言って、何になる。
昔の話なんてしたって戸惑わせるだけで過去が変わるわけじゃない。
だけど悠臣と同様に尚行も、自分の知らない相手の過去を知って理解したいと思ってくれているのなら、その気持ちは誰よりも悠臣自身がよくわかる。
何より今は何故だかわからないが、悠臣は無性に話を聞いて貰いたくて仕方がなかった。それも、他の誰でもない、尚行に聞いて貰いたかった。
「……俺が、ベースを辞めた本当の理由はジストニアじゃないんだ」
そう前置きして、悠臣はゆっくりと語り始めた……。
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