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回顧 (1)
「……じゃあ、ラストライブも無しで、今日で解散てことで、いいんだな?」
大学を卒業してから約二年が経ったある日の午後、学生の頃から通い慣れた大学近くの喫茶店『ガンボ』のテーブル席について約十五分後、ドラムの村上悟は抑揚のない声でそう切り出した。
「二人がいいなら、俺もそれでいいよ」
目の前のコーヒーカップに手を伸ばしながら青木悠臣はこれ以上空気が重くならないようにと、あくまで軽い調子で返事をする。
「……浅野は?」
悟に呼びかけられ、席に着いてからずっと黙ったまま窓の外を見ていたボーカル&ギターの浅野和巳 はようやく言葉を発した。
「……あぁ、わかった」
「なんか、呆気ないもんだな」
煙草を一本吸ってから出るという浅野の一人残して、悠臣と悟は喫茶店を後にした。
「そうだな」
悟のどことなく寂しそうな呟きに悠臣もこれまでのことを思い出して感傷的になりかけたが、言葉少なにそう返事をすると二人並んで最寄りの駅までの道を歩く。
「もっと文句言われるかと思ってたけど、意外にあっさりだったし」
「浅野もわかってたんだろ、そろそろ潮時だって」
「……まあ、そうかもな。そもそもここ最近は全然活動出来てなかったしな」
三人がバンドを組んだのは大学に入学してすぐ。大学の音楽サークルで出会い意気投合して、以来ずっと三人で音を鳴らして来た。
「大学卒業してからもう二年も経つんだよ。このまま続けるのには限度がある。悟は就職先決まって良かったな」
大学卒業後、誰も定職に就かずアルバイトで食い繋ぎ音楽だけは続けてきたが、長いモラトリアムからまずは悟が一抜けした。
「あぁ、青木もこれでもう一つのバンドに専念できるしな」
「……そうだな」
一方でぬるま湯からまだまだ脱却出来そうにない悠臣は、自身の中で燻り続ける焦燥感に気付かぬよう乾いた笑いを浮かべてその場をやり過ごす。
一人で決めたわけじゃない。
それぞれがちゃんと悩んで考えて三人で決めたことだ。
それなのに、最後に見た浅野の寂しそうな横顔が脳裏に焼き付いて離れない……。
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