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回顧 (6)

   それからさらに一ヶ月、たった一ヶ月の間にメンバー間は悠臣の懸念通り、またぎくしゃくし始めていた。それぞれ思うところがあるのに本人に向かっては言わない。だけどそれもお互いわかっているから余計に拗れる。    浅野ならこういうの、絶対に許さないだろうな。  少し前に悟と久しぶりに浅野の話をして以降、ことある毎に悠臣は浅野のことを思い出してしまう。  何でもはっきり物を言う性格のせいで大学生の頃の浅野はトラブルも多かったが、裏表が無いので信頼は出来た。何よりその思いきりの良さが浅野の奏でるギターの音には表れていたのだと改めて思う。  悠臣は小学六年生の頃、二歳年上の従兄弟の影響でギターから始めた。  中学三年生になって受験勉強の合間にベースも弾くようになって、高校の軽音部では同じ学年にベースがいなかったからという理由で三年間ベースを担当。  大学入学当時、サークルは音楽サークルに入ることだけ決めていてベースかギターどちらをやるかまでは決めていなかったが、部室に併設されたスタジオから漏れ聞こえるギターの音に悠臣は圧倒された。  さすが大学生だと感心していると、その時スタジオでギターを弾いていたのが同じく大学に入学したばかりの浅野だとわかると、悠臣は迷うことなくベース一本で行くと決めた。  どこまでも自由で奔放で華やかで大胆かつ繊細に、聴いた者の心に真っ直ぐ響く浅野のギターは多くの人を魅了する。  誰にも、本人にも言ったことは一度も無いが、悠臣にとって浅野は、昔は勿論、今でも唯一無二の理想のギタリストだった。
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