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回顧 (7)

   メンバーそれぞれの不満は解消されないまま、それでも日々は慌ただしく過ぎて行く。  メジャーデビュー前に少しでも認知度を上げるため、スケジュールは全国各地のフェスやイベントでパンパンになっていた。  次のライブへ向けてのリハーサル中、曲の最中で悠臣のベースの音が途切れた。悠臣とて人間なので間違えることはあるが、メンバー全員が振り返る程の致命的なミスはこれまでほぼ無く、悠臣本人でさえ一瞬何が起こったのかわからず驚いた程だ。  そして、その日を境に悠臣の調子は悪化の一途を辿ることとなる……。 「……フォーカルジストニア?……って、何?」  聞き馴染みのないワードと感情の読めない悠臣の表情に沙織は困惑していた。 「簡単に言うと体が、俺の場合は右手の中指が自分の意思とは無関係に動いてしまってコントロール出来なる、っていう症状のこと」  一向に良くならない悠臣の状態を心配したマネージャーの勧めもあって、幾つかの病院を受診した。『腱鞘炎』と言われ貼り薬のみ処方された病院もあれば、診察に時間を掛け丁寧に診てくれたりと病院によって対応は様々だった。そして最終的には悠臣も薄々予想していた、楽器をやっている人間なら一度は耳にしたことのある、『フォーカルジストニア』だと診断された。 「……治るんだよね?」    現状をいまいち理解しきれていない沙織が不安そうに尋ねる。 「わからない。原因もまだよくわからなくて治療法も確確立されてないらしい。……だから、完治は難しいって、言われた」 「そんな……」  ここまで言えば流石に察しがついたようで沙織は顔を引き攣らせた。  原因も治療法もわからない、完治は難しい、つまりは以前のようにベースを弾ける確証は無い。  ベースが弾けないということは、そこまでは理解が及んでも、それ以上は考えることさえ憚られた。そんな沙織に悠臣は容赦無く告げる。 「それで、事務所とも相談して、一旦俺だけ休むことにした。バンドはメジャーデビューに向けて大事な時期だから、俺の都合で活動止めるわけにはいかないから」 「……そうなんだ」  予想もしていなかった唐突な展開に気持ちが追いつかない沙織はそう返すのがやっとだった。そんな沙織をよそに、当事者であるはずの悠臣は、どこか清々しい表情をしていた。

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