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回顧 (10)
煙草を片手にもう一度スマートフォンを手に取ろうとした丁度その時着信があった。
表示された着信相手の名前を見て驚く。ついさっき思い浮かべていた旧友の一人、梶原陽平 だ。とは言っても梶原はバカ騒ぎするようなタイプではなく、悠臣と同類で愉快な仲間たちの様子をすぐ近くから楽しそうに眺めているタイプだった。
だけど梶原とは大学卒業以来一度も会っていなければ連絡も取っていなかった。そんな相手からの突然の電話を不審に思いながら悠臣は電話に出る。
「陽平?久しぶりだな、どうかした?」
『青木!良かった、繋がって』
卒業以来五年ぶりだというのに挨拶も無しに喋り始めた梶原の慌てた様子に、勘の良い悠臣は一気に不安が募る。
「何?……なんか、あった?」
『それが、俺もついさっき聞いたばっかりでまだ混乱してるんだけど……』
仲間内の誰よりも速く就職先を決め卒業論文も終わらせた。いつも冷静な梶原が電話越しでもわかる程、ここまで動揺を隠せない状態に陥っているのは、悠臣が知る限りで初めてだ。
「……それが、……浅野がさ、」
僅かに声を震わせながら、力無く梶原が続けた言葉に、悠臣は目を見開いて絶句する。
――浅野が、亡くなった――
自室のベッドの上で浅野は大学二年の頃に手に入れた愛器ギブソンのレスポールを抱えたまま、眠るように亡くなっていたところを、同居している家族が発見したらしい。目立った外傷も無く、死因は急性心不全とのことだった。
梶原に頼まれ、心が追いつかないまま、それでも手分けして大学の友人や後輩、浅野の元恋人など、わかる範囲で連絡を入れた。
そして浅野の訃報から一週間後、バンドのオフィシャルサイトとSNSに、悠臣の脱退に関する内容が掲載された。
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