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回顧 (12)
「もういいかなって、時間と金かけて治療したって治る保証ないし、潔く辞めて普通に働いた方が沙織もいいだろ」
「……私は、別に」
「金にならないただの趣味で音楽続ける価値は今の俺には無いし、将来の事考えたら潮時だよ」
「……私のせい?」
「え?」
「私が将来の事考えてって、言ったから?」
「別に、それだけで決めたわけじゃないけど、生活費だってこの部屋の家賃だって、ほとんど沙織が出してくれてて、年齢だってもう二十代後半だし、俺なりにちゃんと考えた結果だよ」
「……なんで」
「沙織?」
「なんでいつも一人で決めるの」
沙織が何を言いたいのかわからず、悠臣は黙ったまま次の言葉を待った。
「手のことだって、一人で抱え込まずに病院に行く前に相談して欲しかったし、バンド休む時も辞める時も、ベース売るのも全部一人で決めて、私、なんのためにそばにいるの……」
予想もしていなかった沙織の言葉に悠臣は目を丸くする。
「……言っても、どうにもならないだろ。むしろいつも仕事で忙しくしてるから、余計なこと言わないようにしてたんだけど」
「それでも相談して欲しかった!いつもそう、昔から、大学決める時も、就職しないで音楽続けることも、全部事後報告」
「そんな昔のことまで今更言われても、それこそどうにもならないだろ。そう思ってたんだったらその時言ってくれよ」
「言えないよ、言わなくてもそれくらいわかってよ。こんなに長い間一緒にいるのに、なんでわかってくれないのって、ほんとはいつも思ってた」
思ってもいなかった沙織の本音に戸惑いつつも、ここ最近いろんなことが重なり過ぎていつもより余裕の無い悠臣は珍しく苛々してきた。
「じゃあ沙織は俺の気持ち全部わかってたのか?正社員でバリバリ働く沙織に引け目感じて、俺だって本当はいろいろ我慢してきたよ」
頭ではこんなこと言うべきではないとわかっていても抑えられなかった。
「それでも、俺の我儘通すより沙織との生活や将来を考えて優先するのは当たり前だと思ってたから、別に後悔してるわけじゃない。……なのに、何で今更」
珍しく苛立ちをあらわに反論する悠臣を前にして、沙織は完全に怖気付いてしまっている。
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