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回顧 (14)
一日待ってみたがやっぱり沙織は帰って来なかったが、翌朝ようやく悠臣のスマートフォンに着信があった。だが相手は沙織ではなく、沙織の父親からだった。
少し緊張しながら電話に出ると、沙織の父親は『久しぶり』と比較的穏やかな口調で話し始めた。
悠臣の予想通り、沙織は金曜日の夜、必要最低限の荷物だけを持って実家に帰っていた。それまでの経緯も両親に話して、今は悠臣と直接話をする気になれない沙織に代わって父親が電話をかけてきたのだと言う。
高校生の頃から知っているが、沙織の両親は二人ともとても穏やかな性格だ。娘が突然実家に戻って来たことよりもまずは悠臣の心配をしてくれた。
『娘は強そうに見えて本当は繊細で変化に弱い。悠臣くんの大変な時に支えになれなくて申し訳ない』
そんな言葉を掛けられて、悠臣は胸が痛かった。
いつもそうだ。大学卒業後、悠臣が定職についていないにも関わらず同棲の話になった時も「娘は言い出したら聞かない性格なので申し訳ない」とまず謝られた。
だけど、そんな父親でさえ今回は寛大に、とは行かなかった。
同棲を解消し、二人が暮らしていたマンションは解約して距離を置くよう進言され、それ以上はっきりとは言葉にはされなかったが、このまま別れるよう仄めかされた。
以前の悠臣なら、恩義のある沙織の父親にそう言われたら心を入れ替えて自らどうにかしようと行動を起こしただろう。沙織の父親もそれを期待して、敢えて厳しい話をしたのかもしれない。
だけど悠臣にはもうどんな言葉も響くことは無く、悲しくも無くて、むしろ何処かほっとしている、そんな自分を心底情けなく思う。
ただ、それだけだった……。
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