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回顧 (18)
数日後の昼下がり、悠臣は実家のキッチンの換気扇下で一人煙草をふかしていた。寝起き直後のまだ上手く働かない頭に浮かぶのは、つい先日の出来事。
結論だけ言うとルイとの一夜は、想像以上に良かった。相手が慣れていたこともあり、終始リードされるかたちでスムーズに事に及べた。生理的な嫌悪感をクリア出来れば男同士、気遣いや遠慮は必要無い。お互いの欲を貪るだけの、悠臣の求めていた理想の行為、そのものだった。……だけど。
「……だからといってなぁ」
“お試し”ならともかく、あれにどっぷりハマるのは、流石に危険に思えてこれ以上は躊躇する。それでもこうして毎日のようにあの夜の事を思い出してしまっている以上、前の自分には戻れそうにないと、悠臣自身も気づき始めていた。
翌日も何となく気分が乗らなくて一日実家で過ごしていたが、何も言わないけれど腫れものに触れるかのような家族の目と態度にいい加減耐えきれなくなり、悠臣は久しぶりに夜の街をフラフラと彷徨う。あてもなく歩き続けているといつの間にかルイに連れられて行ったバーの近くまで来ていた。
「また会えたらシようね」
別れ際、妖艶な笑みを浮かべながら悠臣の耳元でそう囁いたルイを思い出す。
ルイはスマートフォンなど、個人的に連絡の取れる物は何も持っていなかった。もう一度会いたかったらこの街の何処かにいるから探して、ということらしい。
今時の若者なのにスマートフォンも持っていないなんて、改めて考えてみなくても怪しいに決まっている。わかっているのに抗えない、というよりも、抗う気持ちが今の悠臣にはもうなかった。
もうどうでもいい。堕ちるならとことん堕ちてやろう。
バーに入るとルイがいた。悠臣に気が付くと満面の笑みを浮かべながらすぐさま近付いてくる。
「遅いよぉ〜、ずっと待ってたのに」
どうせ嘘だろうと思いながらもルイに腕を引かれるまま悠臣はひとまずカウンターでビールを注文した。
「おにーさんすぐ会いにきてくれると思って、僕あれから毎日この店にいたんだけど」
嘘でいい。誰でもいい。女でも男でも。他人の温もりを感じることで眠れるのなら……。
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