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回顧 (19)

 悠臣がビールを飲み干すのを見届けるとルイは再び悠臣の腕を引き、目を細めて悠臣の顔を覗き込んでくる。視線が絡み合うとそのまま二人は無言で出口へと向かった。  店の外に出るとルイは待ちきれないとばかりに悠臣の首にしがみつきキスをねだる。人目も憚らずせがまれるままに応えて、以前と同じようにタクシーに乗ろうと歩き出した、その時だった。  やたら体格の良いガラの悪そうな男数人に行く手を阻まれた。 「……あ〜あ、もう見つかっちゃった」  特に驚いた様子もなくそう呟いたルイと目が合うと、ルイは苦笑いを浮かべる。 「まだバレてないと思ってたんだけどなぁ〜、おにーさん、ごめんね?」  嫌な予感がしてその場から逃げようとしたが遅かった。男二人に捕まり取り押さえられると両脇を抱えられ、引き摺られるようにして悠臣は人気の無い路地裏に連れて行かれた……。  タクシーから降りてすぐの距離を、通常の倍以上の時間を掛けてそれでもなんとか一歩ずつ前に進む。鍵を開けて実家の玄関にようやく辿り着くと同時に悠臣は力尽き、その場に倒れ込んだ。酷い頭痛と吐き気、全身の痛みから息をするのも辛い。靴を脱いで立ち上がることももう、出来そうにない。薄れていく意識の中、悠臣はまるで他人事のようにぼんやりと考える。  俺、このまま死ぬのか……。  路地裏に連れ込まれた悠臣は、男たちから数分間に渡って殴る蹴るの暴行を受けた。 「もういい、アイツがフラフラ遊びまわる度に消してたらキリがねぇ。それくらいにしとけ」  地面に転がされ何度も意識が飛びそうになり呻き声すら出せなくなった頃、暴行の様子を黙って見ていた一人の男がそう言ったのをきっかけに男たちはようやく蹴るのを止めて、悠臣をその場に放置したまま満足そうに引き上げていった。  途中から姿が見えなくなったルイが何者だったのか、何処へ行ったのか、どうなったのか、もうどうでもいい。こうなったのは最初から胡散臭い人物だとわかっていながら欲に負け、手を出した自分の落ち度だ。ルイが何者であろうと責める気もないしそもそも二度と会うことは無い。ただ、あまりにも情けない死に方で、後悔があるとすればそれだけだ。恋人もいない。ベースも弾けない。弾けたとしてもやりたいこともない。  浅野がいない世界で奏でたい音楽なんて無い……。

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