65 / 110
和解 (1)
悠臣が話してくれた過去を何一つ聞き漏らさぬよう尚行は静かに真剣に耳を傾けていた。
普段のよく知る穏やかで落ち着きのある悠臣からはあまり想像もつかない一面もあったとわかって僅かに動揺もしたが、ずっと知りたかった悠臣の過去を知れて後悔は勿論無い。だけど、二人が知り合ってから親しくなってこれまで何度か疑問に思っていた、悠臣が日頃から尚行に対して何故あれ程までに世話を焼きたがるのか、更には今日、尚行が倒れたと聞いてどうしてあんなに取り乱していたのか、その理由にも察しはついたが、そこは流石に冷静には受け止められないでいた。
「ジストニアはきっかけに過ぎない。あの頃の俺は浅野が死んだことを受け入れられなくて、ジストニアのせいにして全部投げ出した。今もまだ、浅野のことは吹っ切れてない、……多分この先も、一生」
悠臣がジストニア以外でも過去に何かあって、今でもずっとそれを胸に抱えていると尚行は何となく気が付いてはいた。Southboundのライブ中、悠臣はいつも楽しそうに観てくれていたが、時折何処か遠くを見るような目で、寂しそうな表情をしていた。
「あの時俺がバンドを辞めようなんて言わなかったら、もっと早く会いに行っていたら、……どうにもならないってわかってるけど、何度も考えた」
そして今もまた同じ顔をしている。
「浅野と悟と三人でバンドやってた頃が一番楽しかったって、あんなに一緒に居たのに、一度も言ったことがなくて、あいつの弾くギターが本当に好きだったことも、何もかも、大事なことなんて、何一つ伝えられてない」
苦しそうに声を詰まらせながら言葉を搾り出す。その様を尚行はただ黙って見守っていた。今は何と声をかけて良いかわからない。
「それでもあのまま死ねなかった以上は生きていくしかないし、今の会社就職して仕事に没頭して、昔の顔見知り程度のシンガーソングライターが売れてテレビ出てるのとか、俺のいたバンドがメジャーデビューから三年で結局解散したのとか見ても、あんまり何も思わなかった。音楽を嫌いにはならなかったけど、いつの間にか俺の中で大事なものでもなくなってた。……そんな頃に、尚に出会ったんだよ」
ともだちにシェアしよう!

