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和解 (3)
悠臣は初めて尚行と会った日のことを改めて思い出す。初めて観た路上ライブで尚行は誰よりも楽しそうだった。それなのに音楽に対して一線を引いているかのような言動が気になった。
「そうか……」
だから尚行は今、純粋にSouthboundの音楽を聴きたいと思ってくれている人のために、彼らの音楽に足を止めてくれる人に向けて音を奏でていたのか。尚行が路上ライブに拘る理由がここへ来てようやく腑に落ちた。
「俺がこっちに来てから毎週のように会ってて、尚のことならだいたい理解してるつもりになってたけど、考えてみたら俺らが知り合って、親しくなってからまだ半年も経ってないんだよな」
二人でいる時は、二人の間でだけ会話が成立していれば特に問題は無かった。それがここ最近、バンドメンバーや莉子といった尚行の身内と接するようになって、悠臣が尚行についてまだまだ知らないことだらけだったと実感させられた。
「あー、俺もそれ思ってた。悠臣がベーシストとしてバンドやってたって知った時も、昔のこと気にはなったけど、今一緒にいて楽しかったから別にいいかって思うようにして、でもやっぱ人づてに聞いたりするともやもやするし、変に取り繕って誤解して拗れるくらいならちゃんと話をした方がいいって、改めて思ったよ」
尚行が『青木悠臣』の名前を検索して、悠臣がベーシストだったと知った時、驚きと同時に話して貰えない寂しさは当然感じていた。それでも自分にもあまり思い出したくない過去があるのと同じように、悠臣にも事情があるのだろうと知らないふりをしていた。やがて積もり積もった小さな不満や不安、更には日増しに募る悠臣への想いに潰されそうになって、一番最悪な形で悠臣の過去を暴いてしまった。
「大事なことはちゃんと言葉にして伝えないと、そのうちにとか、いつかまた、とか思ってたら一生その日は来ないかもしれないって、わかってたはずなのにな。……それなのに自分の都合だけでお前を遠ざけて追い詰めるような真似して、ほんと悪かった」
また悠臣が苦しそうに顔を歪めるのを見て尚行は慌てる。
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