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前進 (1)
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だって」
「あれからまだ一週間しか経ってないんだから、やっぱり無理しないほうが……」
「その一週間悠臣の作ってくれた飯いっぱい食って夜もしっかり寝たからもう全然平気」
「……でも」
「だぁー!もうしつこい!じゃあ疲れたら言うし、そん時は運転変わって」
「……わかった」
出発前の押し問答から約二時間弱の間、尚行の車のハンドルは結局やたらと機嫌の良い尚行がずっと握っていた。
悠臣は出発直後こそソワソワと落ち着かない様子で助手席に座っていたが、一時間程経った頃にはすっかり快適なドライブを楽しむ余裕も出てきた。
それもそのはず、今日は悠臣が引っ越して来て以来、意外にも初めての遠出のため嫌でもテンションが上がる。
駐車場に車を停めてドアを開けるとむせ返るような夏の熱気に混じって潮の香りがした。
「海なんて、何年ぶりだろ」
「俺はちょうど一年ぶり」
悠臣はいつ以来なのか思い出せもしないから、子供の頃家族と行って以来かもしれない。
とはいえ今日は海に入りに来たわけではなく、毎年この時期にこのビーチ周辺を中心に催される音楽イベントのために来たのだった。
音楽イベントと言ってもよく耳にする有名な大型ロックフェス等とは違い「音、食、物」がテーマで、いくつかあるライブステージはどれも比較的小規模になっていて、会場にはたくさんのキッチンカーや屋台、ワークショップのテントなどが立ち並んでいる。音楽を聴きながら好きに食事をしたり遊んだり出来る、とても自由なイベントだ。
ひとしきり楽しんだ後、二人は空いていたベンチに落ち着いた。
「あ〜楽しい、……けどあっちぃい!」
連日の猛暑に出来る限りの対策はしてきたが、それでも暑いものは暑い。
「五年連続で来てるけどさ、年々暑くなってるし食のイベントでもあるから開催時期ずらそうって案も出てるけど、他のイベントとの兼ね合いもあってなかなか難しいんだって」
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