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前進 (4)
更に「あの双子は好みが似ているから」と付け足した。つまりは悠臣が尚行の好きな相手だと知っている上に恭一という婚約者がいて、莉子が尚行と恭一を裏切ることは「絶対ない」が、それでも莉子にとって悠臣が好みのタイプであることも否定出来ないので「念のため」だったのだろう解説してくれた。
「先生がSouthboundのギターだって以上に莉子ちゃんとの関係は予想もしてなかったから流石に驚いたけど、それよりも……」
悠臣はそこで一度言葉を区切る。
「なに?」
悠臣は一連の流れから気になったことを躊躇いながらも聞いてみることにした。
「先生と莉子ちゃんが結婚することに、尚は反対とかしなかったのか?」
「なんで?反対する理由も特にないけど」
神妙な面持ちで思いもよらなかった質問をされて尚行は明らかに戸惑っている。遠回しな言い方では聞きたいことが伝わりそうにない。一呼吸置いてから悠臣は続けた。
「尚は、好きだったんじゃないのか?……先生のこと」
悠臣の言葉に尚行は目を見開いて固まっている。悠臣の表情と話し方から冷やかしなどではなく真剣に聞いているとわかると尚行は気恥ずかしそうに目を逸らした。
「……昔の、子供の頃の話だよ。なんでわかった?」
「いや、なんとなく」
本当は恭一が言った「あの双子は好みが似ている」という言葉と、莉子から聞いていた尚行のその好みというのが「年上で穏やかで面倒見が良くて包容力がある人」なら恭一にピタリと当て嵌まる。恭一が莉子の好みのタイプであるなら尚行も同じだろうと考えたからだったが、そこは敢えて曖昧に濁した。
「……まあ、いいけど。恭ちゃんてさ、俺や莉子より四つ上で子供の頃の俺からしたら頭良くてスポーツも出来て優しくて、身近にいる一番カッコいいお兄ちゃんだったんだよ。だから今思えば単なる憧れだった気もするけど、その後もたいてい似たような人好きになってるからまぁ初恋だったのかなって自分でも思ってる。けど恭ちゃん中学くらいからいつも違う女連れてたり、いろいろ見えてくるとさ、俺は自然とそういう気持ち無くなっていったんだけど、莉子はそれでもその頃からずっと恭ちゃんのこと好きだったんだよ」
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