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前進 (6)

 眉間に皺を寄せて不機嫌そうに言う。だけど尚行のこの表情は本当に機嫌が悪いわけではなく、単なる照れ隠しだと悠臣はもう理解している。 「俺って子供の頃からこんな感じで喋んのも下手くそだったし、周りから浮いてること多くていつも莉子がフォローしてくれてた。自分の性的指向自覚した頃も、なんかあったわけじゃないんだけど一時的に不登校になって引きこもってた俺に一番寄り添ってくれたのはやっぱり莉子だったし、カムアウトしたのも莉子が最初で、高校生の頃、両親に言う時も莉子が一緒にいてくれたからあんまり気まずくならずに済んだし、両親も理解してくれた」 「……そうなんだ」  極端なまでの大胆さと繊細さを併せ持つ尚行の十代の頃の葛藤は相当なものだっただろう。 「うん、……こっちに戻って来た頃だって莉子がいなかったらどうなってたか。少なくとも今みたいに落ち着いて、ましてやバンドなんて絶対出来なかったと思う」  以前莉子も言っていた、例の是永というスタジオミュージシャンと別れて地元に戻った頃の尚行は昔とは別人みたいに何事にも無気力になって音楽からも離れ、そのままギターも辞めてしまいそうだったと。  あの時莉子は啓太たちのおかげで尚行は元気になったと続けて言っていたが、尚行にとっては当時誰よりも自分を理解し、心配してそばにいてくれたであろう莉子に救われたのは確かだろう。  悠臣はそんな二人の関係性を微笑ましく思うと同時に羨ましくも思った。 「だから何となく寂しい気持ちもあるけど、でもやっぱりあの二人が結婚すんのは単純に嬉しいよ」  そう言って本当に嬉しそうに穏やかな表情で笑った。そんな尚行を見て悠臣も自然と顔が綻ぶ。 「そうか、なら良かった」  お互いに気になっていた話が聞けてすっきりした様子だ。 「そういえば悠臣はお盆の時期って帰省すんの?」 「あー、それがさっき話してた妹が今二人目妊娠中でさ、予定日がちょうどお盆前くらいだから俺いたら邪魔になりそうだし、その時期は避けて来月の連休に帰る予定にしてる」 「へぇ、そうなんだ、おめでとう」  その話題をきっかけに、しばらくの間イベントそっちのけでお互いの話をした。せっかく来たのに勿体無いと思う気持ちもあったが、それよりも今は目の前の相手と向き合って、なんでもいいから話がしたかった。  来場者それぞれが思い思いに楽しんでいる開放的な空気がそうさせるのか、二人ほぼ同時にこれまでの人生のターニングポイントとも言える一番重要な過去を知れたからなのか、少し前なら曖昧に濁していたような部分も今なら素直に話せる。  何より一週間前までは想像も出来なかった、二人で過ごすこの時間の心地良さを、ただただ噛み締めていたかった……。

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