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前進 (10)
言われて悠臣ははっとする。
今の関係が成り立っているのは他でもない、尚行の気遣いのおかげだ。尚行が気持ちを伝えてくれた日、「絶対に落とす」と息巻いていたにも関わらず、その後は特に何か言ってくることもなかった。かと言って諦めたわけでもなく、一緒に居て好かれていると感じる場面は多々ある。そんな尚行が何も不安を感じていないはずなどないのに、悠臣は一見尚行を思い遣っているようでいて自分の都合を優先していた。
昔、沙織と別れた頃から何も成長していない。
昔も今も沙織なら、尚行ならわかってくれるだろうと勝手に期待をしていた。「大事なことはちゃんと言葉にして伝えないと」とつい一ヶ月前に自分で言ったばかりなのに。
「でも、だからといって急いで結論を出す必要もないよ」
わかりやすく自責の念に駆られている悠臣に向けて恭一は穏やかにそう言った。
「けど、いつまでもはっきりしなくて不安にさせるのも悪いし……」
「まぁそりゃ何年もこのままとかなら話は別だけど、……でも尚は何年でも待ってそうだな」
そう言って可笑しそうに笑う恭一に対して悠臣は本当にもうどう対処して良いか完全にわからなくなってしまった。
「気持ちがはっきりしてる分、尚の方はあれでもう開き直ってるよ。だとしても不安が無いわけじゃないから、それをわかってくれてたらいいってだけの話。……で、俺はこれを莉子と付き合う前に尚に言われた」
「……え?」
「莉子も尚も一人っ子の俺にとっては血の繋がらない妹と弟みたいなもんで、莉子の気持ちも昔から気付いてはいたし可愛いと思ってはいたけど、簡単に手を出していい相手じゃなかった。大人になった莉子と再会してすぐに惹かれる気持ちはあったけど、さっき青木くんも言ってみたいに、大人になると好きってだけで簡単には付き合えないし、お互いの仕事のこととか、もし拗れたら尚とも気まずくなるとか、いろいろ悩んだよ。そしたら尚に説教された」
当時のことを思い出し恭一は決まりの悪そうな顔で苦笑いを浮かべる。
本当にあの双子は昔からずっとそうやってお互いを助け合って来たのだろう。
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