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決心 (4)
「そんな泣くほどのこと?」
「だって!お兄ちゃんがまたベース弾くなんて、もうないと思ってたから……」
そう言いながら堪えきれなくなった涙が奈月の頬を伝う。それに気付いた母親が奈月の隣に座り穏やかな表情で奈月の背中にそっと手を添えた。
思っていた以上に心配をかけていたのだと今更ながら悠臣は思い知る。それと同時に心配ばかり掛けていたあの頃の自分を改めて恥ずかしく情けなく思った。
「まぁでも今の仕事しながらだし、前にみたいに仕事としてバンドやるわけじゃないから」
「なんだっていいのよ、悠臣が自分で考えて自分でやるって決めたんなら。しっかりやんなさい」
感極まって喋れなくなった奈月の代わりに母親はそう言ってくれた。
あの頃、想像する余裕も無かったのは確かだが、悠臣の知らないところで家族も一緒に悩み苦しんでくれていたのだろう。そしてそれを悠臣に悟られないよう、きっと気を遣ってくれていた。
もっと早く気が付いていれば、そう思わなくもないが、それでもこのタイミングで尚行に出会えたからこそ出来た決断だ。
そんなことを考えていると、無性に尚行のことを聞いて貰いたくなった。路上ライブで初めてSouthboundのライブを観た日のこと、再会して親しくなってからのことなどを簡潔に話すとみんな興味を持って聞いてくれた。
「お兄ちゃん転勤になって良かったね」
母親が入れてくれた温かいルイボスティー飲んでようやく落ち着いた奈月がしみじみと言う。
「まぁそうだな」
出張の際にSouthboundの路上ライブに遭遇し、その音楽性の高さにどっぷりハマったものの、転勤が決まってもライブを見に行っても、その後こんなに親しくなるなんて想像もしていなかった。ましてやSouthboundにベーシストとして誘われるなんて。むしろ最初は深く関わらない方が良いなんて思っていたくせに、今となってはもうそんなふうには考えられない。
「……その尚って人、男の人なんだよね?」
「あぁ、もちろん」
「お昼に話した時、付き合ってる人いないって言ってたけど、その人が女の人だったらお兄ちゃんと上手くいったのかなぁとかちょっと考えちゃった」
ふいにそんなことを言われ、飲んでいた麦焼酎を吹き出しそうになる。
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