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導き (2)
「……サドウスキーの五弦、しかもメトロライン、……いくらしたんだよ」
まるで泣きそうな顔で笑いながら尚行が言う。
「現行のドイツ製だからそこまで高くはないけど、まぁそれなりに。六年間真面目にサラリーマンやってきて趣味も特に無いし、実はそこそこ貯金あるんだよ」
「……弾いてみてもいい?」
「どうぞ」
遠慮がちに尋ねる尚行に悠臣がそう返事をすると、尚行は新しいおもちゃを与えられた子供のような顔で真新しいベースに手を伸ばした。
尚行がベースを弾いている間に悠臣は持参にした夕食を温め直しテーブルに並べる。
やがて満足した尚行がベーススタンドにベースを戻し、手を洗ってからテーブルを挟んで悠臣の正面に座り一緒に食べ始めた。
「どう?弾いてみた感想は」
「いいな、思ったよりクリアで素直な音だけど全体のバランス良いしオールマイティに使えそう。だけどその分下手な奴が弾いたら一発でバレるな」
「確かに」
「なんでこれにしたの?」
「あぁ、昔から憧れてていつか欲しいなって思ってたんだけどあの頃は金無かったし、そもそも前のバンドでは五弦必要無かったし、でも今買うならって考えたら、これに落ち着いたと言うか、他はあんまり考えてなかったな」
「東京で買ったの?」
「うん、大学生の頃からしょっちゅう行ってた楽器屋なのにな、久しぶり過ぎてなんか緊張した。六年も経ってるし店員さんも知らない人ばっかだったし」
「それわかる。俺も地元戻って楽器屋行く時緊張したっつーか、なんか気まずかった。……けど、出来たら一緒に選びたかったなぁ」
唇を尖らせ素直に不満をこぼす尚行に悠臣の口元が緩む。
「治療始めたくらいからいつかはって思い始めてたけど正直今はまだ買う気は無くて、実家帰っていろいろ思うところがあってさ、……でも、あの店に無かったら買わなかっただろうな」
悠臣の意図が上手く汲み取れず困惑する尚行を一瞥してから話を続ける。
「前に話した大学生の頃一緒にバンドやってた浅野がさ、その楽器屋で昔バイトしてて、そこであいつもギブソンのレスポールを買ったんだ」
当時、大学のサークルの部室でもほぼ毎日顔を合わせていたのに毎週のようにバイト先に押しかけていた悠臣に対して「また来たのかよ」と口では文句を言いながらも浅野はいつも嬉しそうだった。
「だからってその店じゃなきゃ駄目ってわけでもなかったし、あえて何も調べずに行ってこれって思うのがなかったら買うつもりはなかったんだけど……」
「行ったら、こいつが居たんだ」
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