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導き (3)
「うん、居てくれた」
懐かしい店内に入ってすぐ、昔の癖でついギターコーナーに視線を向けてしまい胸が苦しくなった。店のレイアウトはほとんど変わっていないのに知っている店員も、もちろん浅野も、もうここにはいない。
――まだ、早かったか……。
動悸がしてやっぱり帰ろうかと顔を上げ、それでも少しだけでもと、昔と同じ場所にあるベースのコーナーを向いた。
その一瞬で見つけた。
「運命の出会いとか、俺あんまり信じてない方だったんだけど見た瞬間これだって弾く前から思って、結局他はたいして試さず決めた」
浅野も当時の店長に「良いの入ったよ」と言われ、入荷したばかりのレスポールを手に取った瞬間“コイツ!”と直感で購入を決意したとよく言っていた。
そんな思い入れのある楽器屋だから行ってみようという気になったのは確かだが、あの時の浅野と似たような体験をするとは流石に思ってもいなかった。
「あ〜俺も似たようなもんだったな」
悠臣の話を楽しそうに聞いていた尚行が口を開く。
「お前も?」
「うん、でも俺の場合はコレだろうなと思いながらもその時店にあったギター片っ端から試奏させて貰ってやっぱコレだなって感じで決めたけど。一応ヴィンテージなもんで、コレしか無いって根拠が欲しかったんだよ」
親しくなってから一度聞いたことはある。尚行愛用のレスポールは悠臣が買ったベースの倍はする。
「よく買えたよな」
「まぁあの頃俺も、金だけは無駄にあったからな」
缶ビールを片手に顔を顰めながらそう言う尚行を、今度は悠臣が少し不思議そうな顔で見ていた。
「前にうちで黒のストラト見たろ?昔はあればっかりで、東京にいた頃も、……でも、こっち戻ってまたバンドやるってなっても、あれは弾きたくなくて、けど処分する気にもなれなくて、どうしてもあれ以上のギターが必要だった」
一度言葉を区切りビールを一口飲んでから続ける。
「……俺さ、前の奴と別れる時金貰ったの。手切れ金てやつ?最初は要らねぇっつって突っぱねようとしたけど、なんも無しで別れてやるのも馬鹿らしくてさ、貰えるだけ貰ってやった」
苦笑いを浮かべ「だせぇだろ」と自嘲気味に呟く。
「……いや、それくらい、当然だろ」
その当時の尚行の苦しみがどれ程のものだったのか、想像すらしてやれないのが悠臣は悔しくて堪らない。
「あいつに貰った金で買うの、最初は迷ったんだけど、莉子と恭ちゃんがその金は俺がギタリストとして稼ぐはずだった当然の対価だから気にするなって言ってくれて、それに使わずにずっと置いとくのも嫌だったし割り切ってギターと、それから家の改装費用に全部使ってやった」
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