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導き (4)
「そうだったんだ」
ヴィンテージのレスポールに自宅改装費用、更にはそこにある機材等の総額は相当な物ではあるが、それでも足りないくらいだと悠臣は唇を噛み締める。そして少し迷ったが、以前恭一から聞いた話の詳細を尋ねてみることにした。
「ちょっと前に尚のその頃のこと、少しだけ聞いたんだけど、……昔その人に、利用されてたって」
尚行の様子を窺うように盗み見ると気まずそうに眉間に皺を寄せている。
「言いたくなかったから、無理に話さなくていいけど」
「や、別に、そういうわけじゃない、けど」
短く息を吐いてから尚行は続けた。
「……俺、専門の頃ってギター弾くことよりも機材が好きで、それで音響の勉強してたんだけど、そいつはさ、俺とは逆でギター弾くのが好きでテクニックは凄かったけど、足元とか機材のこだわりゼロだったんだよ。元々本業はスタジオミュージシャンだけど、そんなんだから当時はあんまり仕事なくて、で俺が足元全部整えて音の作り方まで教えてやったら徐々に依頼が増えていって、臨時講師の期間が終わって東京戻る頃には結構な有名どころからも指名もらってた。……だから俺を東京に連れて行ったんだよ、俺に音作りさせるために」
話し終えると尚行は立ち上がりキッチンの換気扇の下で煙草に火をつける。
「……わかっててお前は、それでもついて行ったのか?」
本当にその是永というギタリストは音作りをさせるためだけに尚行をそばに置いていたのか、どうしても気になった。
「半々かな。……でも、それでも良かった、あの時は。俺を必要としてくれて、そばにいられるなら」
吐き出した白い煙を見ながら呟くように言う。儚げな横顔と寂しそうな声色に悠臣は胸が苦しくなった。
「……悪い、嫌なこと話させて」
悠臣も立ち上がり、尚行のすぐ隣に立って煙草に火をつける。そんな悠臣をじっと見てから尚行は表情を緩めた。
「や、大丈夫。確かにちょっと前までは思い出すのも嫌だったけど、なんか最近はもう割と平気」
とても“平気”とは思えない顔つきをしていたのは気になったが、それでも話してくれた張本人はやけに満足そうにしているので、きっと打ち明けられてすっきりしたのだろうと思うとまだ救いがある。
忘れることは出来なくても、こうしてお互いに分け合って軽くなればそれで良い。
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