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導き (5)

「それにしてもいい色だな。青木だから青系?」  煙草を片手に尚行はベース見ながら唐突にそう言って笑った。  悠臣のベースのボディのカラーは“Dark Lake Placid Blue”、ダークが付くことから従来のレイクプラシッドブルーより濃く深みがあり青というよりは濃紺だ。 「湖というよりは、俺の中の勝手なイメージでは夜空なんだよな」 「夜空?」 「あぁ、尚のレスポールが街灯に照らされた路面で、俺のベースが夜空みたいで並ぶとなんかいいなって思って」 「……は?……え?」 「あ、そうだ、エフェクターは尚に選んで貰いたいんだけど、任せていい?」 「あ?あぁ、もちろん……」  忙しなく瞬きしながら尚行がしどろもどろに返事をする。 「いやちょっと待って!さっきのってどういう……」 「ん?」  先程の悠臣の発言に動揺を隠せない尚行を悠臣はのんびりとした表情で不思議そうに見つめている。そんな悠臣に気付き自分ばかりが意識しているのだと思うと虚しくなって、尚行は眉根を寄せてため息をついた。 「や、やっぱいい、……つーか悠臣の中でそういうイメージがあるってことはさ、もうそろそろ、期待してもいいわけ?」  俯いて目を合わすことなく、呟くように尚行が聞く。 「…………」  無言の悠臣に不安になって恐る恐る顔を上げると、穏やかな表情を浮かべている悠臣と目が合って尚行はドキッとした。 「帰省する前に先生に提案されてて、まだ迷ってたから言えてなかったんだけど、……決めたよ」  そう前置きして先週の土曜日、二人で食事に行った際の恭一との会話を思い出しながら悠臣は尚行に伝える。 『それで、青木くんに提案があるんだけど、……そろそろ合わせてみない?』  唐突な提案に一瞬理解が及ばす悠臣は困惑した。 『合わせるって、バンドで?』 『もちろん』  悠臣の反応を楽しむかのように口元は笑っているが、瞳は真剣そのもので恭一が本気で言っているとわかると悠臣も表情を引き締める。 『……先生は、大丈夫だと?』  今の悠臣の状態は悠臣本人より恭一の方が把握しているとも言える。 『それを見極めるためにもそろそろ必要な過程かなと思う。だから考えておいて、俺からは何も言わないでおくから、気持ち固まったら青木くんから尚に言って』  それから一週間、悠臣はずっと迷っていたが、実家に帰省した際に家族と話をして、そして新しいベースを手に入れて、ようやく心を決めた。  尚行の目を真っ直ぐ見ながら悠臣が言う。 「Southboundで、尚の隣でベースを弾かせて欲しい」  

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