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確信 (4)
「だけど正直言って俺もまだ自分の今の気持ちをどう伝えていいか、いまいち考えが纏まってない。……それでも一つだけ、俺はこれから先もずっと尚と一緒にいたいと思ってる。そこだけは揺るがないから、まず最初に言っておく」
悠臣の話を聞く覚悟が出来ないままでいた尚行は当然悠臣の言葉の意図がよく理解出来ない。目を見開いてひとまず次の言葉を待った。
「尚と一緒にいるために何が必要か、何をするべきか、あれからずっと考えてたよ」
尚行の様子を窺うと迷子の子供のような顔をしていて思わず笑ってしまいそうになったが堪えた。
「まずさっきの、尚が俺にとってそういう関係の対象かって話だけど、」
悠臣がそこで一度言葉を区切ると尚行は僅かに顔を引き攣らせ気まずそうにまた目を逸らした。
「今だから正直に言うけどさ、最初に二人で飲んで初めてこの家に泊まった日の朝、お前に押し倒されて一瞬その気になりかけた。もうちょっと酒残ってる状態だったら、あのまま流されてやってたかもな」
落ち着いた口調でいきなりまさかの告白をされどう受け止めて良いかわからない尚行はますます困惑している。
「でもあの時やらなくて良かったと思ってる」
「……それは、まぁ」
悠臣にそう言われると複雑な心境ではあるが、尚行自身もあの日を振り返ってみて、あのまま関係を持たなかったから今があると思っている。
だけど、一瞬でも性的な対象で見られながら結局は拒まれ、その後も何もなかったことを思えば、悠臣にとって自分はそういう対象ではないと、そう勝手に結論付けてしまう。
「お前に最初にキスされた時も嫌悪感とか全くなかった、さっきのも。……嫌とかは、ないんだけど」
淡々と喋る悠臣の心情を全く汲み取れず、尚行はもう黙って次の言葉を待つことにした。
「俺、昔バカなことやってた時期があったせいで、自分が恋愛感情なくても、相手が男だろうが女だろうがセックスは出来るってわかってるから、身体の関係が先にあったら余計自分の気持ちがわからなくなってたと思うしやらなくて良かったってことで、だからそういう対象として尚が有りか無しかって話だけなら、……有りだと思う」
「じゃあ」と言いかけて尚行は言葉を飲み込む。ひとまず“有り”なのは良かったとして、悠臣は“有りか無しかの話だけなら”と言った。
「だけど、さっきも言ったように俺の中でセックス=恋愛って図式はあんまり成り立ってなくて、それだけじゃ判断出来ないから、いろんな角度から考えてたんだけど……」
「ちょっと待って!おとなしく悠臣の話聞こうと思ってたけど、やっぱ無理、我慢できねぇ」
悠臣の言葉を遮り、捲し立てるように言ってから一呼吸置くと、尚行は悠臣の目を真っ直ぐ見る。「ずっと一緒にいたい」とか「セックスは出来る」とまで言われて違ったら居た堪れないどころの話じゃないが、それでももう確かめずにはいられない。
「悠臣、俺のこと、好きなの?」
おずおずと、それでもしっかり悠臣の目を見ながら尚行はそう聞いた。
対する悠臣も尚行から目を逸らすことなく、真っ直ぐ尚行の方を向いて、はっきりと答える……。
「あぁ、そうだよ」
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