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確信 (5)
その頃、Southboundのギター佐橋恭一とドラムの河村啓太、キーボードの小野塚歩の三人は行きつけのBAR「Strange Brew」で軽い打ち上げをしていた。
「あれはどっからどう見ても尚のこと好きだよなぁ〜、青木くんて」
テーブル席に付いてすぐ、恭一はしみじみとそう言った。
「ですよね、だいたい好きでもない相手のためにいくら近所に住んでるとはいえ毎日のように通って朝起こしたり飯作ったり家の掃除したり、そこまでしないでしょ普通」
運ばれてきたビールを半分程一気に飲んでから啓太が答える。
「俺正直に言うと、二人がどうとかじゃなくて誰が相手でも、演奏中にそういう空気出されるとさすがにちょっと嫌悪感あるかもって思ってたんですけど、不思議と何も感じなかったですね。むしろ二人並んだ時の空気感が自然過ぎて前からずっと一緒にやってたのかなって錯覚するくらい」
歩は苦笑しながらついさっきのスタジオでの様子を振り返ってみる。
「本格的にいちゃいちゃし始めんのはこれからかもよぉ〜」
にやにやしながら一杯目のビールを飲み干した恭一がカウンターにいるマスターに向かっておかわりを頼んだ。
「まぁそうなったら年長の恭さんに然るべき対応をしてもらうとして、青木さん、想像以上でしたね」
満足そうにそう言って歩もビールを飲み干す。
「いやマジで。俺本当に何も知らされてなかったからここへ来る前、恭さんと歩から悠臣さんがジストニアが原因でベース辞めてたって話聞いて驚いたもん。全くそんな影響感じられなかったし」
興奮気味に捲し立て、啓太は自分と歩のおかわりを頼んだ。
「発症当時がどの程度だったかわからないけど、うちに来始めた頃は確かにまだそれらしい症状は出てたよ。けど青木くんの今の状態は、はっきり言って軽度。バンドを辞めたのはジストニアがきっかけだけど、ベースを辞めたのは他の理由って本人も言ってたし、……歩、青木くんの昔のバンドの曲って、聴いた?」
「あー聴きました、一通り。さすがにちょっと気になったし」
「どう思った?」
「そうですね、インディーズの初期の頃は荒削りだけどアレンジも凝ってて遊び心のある面白いバンドだなって印象でした。それが後期になるにつれて曲もアレンジも洗練されてはいたけど、初期の頃の面白味が無くなって、まぁありがちな若手バンドって感じになってましたね。メジャー行ってからは、青木さんも辞めた後だしほとんど聴いてないです」
悠臣も尚行もこの場にいないので歩は遠慮なく思ったことをはっきりと言う。
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