100 / 110
確信 (7)
レコーディングでもスタジオ練習でも、勿論ライブでも、尚行はいつも楽しそうにギターを弾く。尚行と啓太、恭一の三人からスタートしたSouthboundに歩が正式加入する以前からそれは変わらなかったが、ここまで感情を隠しきれていない尚行を見るのは初めてだった。
「二人とも知ってると思うけど、尚はバンドを、Southboundをずっと続けていく気はなかった。そもそもあいつが心許せるメンバーじゃないと無理だし、誰かが抜けたら終わりって、言葉にはしなかったけど、尚はそう思ってたと思う。それで前のベースが抜けることになって、俺もいよいよ終わりを覚悟してた頃に青木くんと出会って、尚はバンドを続けたいって思ってくれた。それだけでも俺は青木くんに感謝してるんだよ」
たまたま遭遇したSouthboundの路上ライブを観て悠臣はバンドのファンになってくれた。
転勤でこの街に来てからもライブの度に観に来てくれて、ライブ後には尚行と親しげに話をしている姿も何度も目撃していた。
尚行が悠臣に惹かれ始めていることにもみんな早々に気付いていてそれぞれ暖かく見守っていた。
それが、これからは一緒にバンドをやるなんて、誰も想像していなかったが、音を合わせてみた今、後任のベーシストは悠臣以外考えられない。
「出会うべくして出会ったのかな」
現実主義の歩から出た一言に、恭一と啓太は今度こそ驚きを隠せず目を見開いて顔を見合わせた。それに気付いた歩は気まずそうに顔を顰めてから言葉を続ける。
「人と人の出会いや繋がりが特別で大切だってことくらい俺だってわかってますよ。それなりに出会いも別れも経験してますから。……でも、ちょっと羨ましいって思ったのは、初めてかも」
メンバー最年少ながら尚行に次ぐ捻くれ者の歩が思いのほか感化されているのが面白くてここぞとばかりに弄りたい気持ちはあったが、恭一も啓太もそれぞれ似たようなことを思っていたので飲み込んだ。
「ま、何にしてもそんな誰がどうみても相性の良い相手、絶対逃したら駄目だよなぁ。……今頃ちょっとは進展してくれてるかな」
遠くを見るような目をして啓太はそう言うとグラスにあと少し残っていたビールを飲み干してからまた新たにビールを注文した。
「必要以上に想像はしたくないけど、そうでないと二人っきりにしてきた意味ないですからね」
すっかりいつもの調子に戻った歩はまた煙草に火を付ける。
「俺は今夜は悠臣さんと飲んで思いっきり語りたかったんだけどなぁ〜」
啓太が心底残念そうに言うので恭一は思わず笑ってしまった。
「そんな機会、これからいくらでもあるよ」
尚行と一番付き合いの長い恭一の嬉しそうな表情に啓太と歩もつられて笑顔になる。
「ですね」
啓太が注文したビールがテーブルに届くと三人はそれぞれグラスを手に取り、それぞれの想いを胸に改めて乾杯をした。
ともだちにシェアしよう!

