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確信 (8)

 ――あぁ、そうだよ――  拍子抜けする程あっさりと返され、ある程度返り討ちに合う覚悟を持って聞いた尚行は、今度こそもうどう対応して良いかわからず両眼を大きく見開いて固まってしまった。 「……好き、……だけど」  そう言いかけて悠臣の表情が急に曇った。悠臣から出た「好き」の言葉に思わず頬がほころびかけた尚行だったが、途端に表情が消える。 「……なんだよそれ、好きだけど、一緒にいたいけど、セックスは出来るけど付き合えないって話なら、もうこれ以上聞きたくないんだけど」  目を逸らし俯いて声を震わせながらそう言う尚行の手の甲を包み込むように、悠臣は自分の手をそっと重ねた。 「そうじゃないよ、つーか俺もそれ確認したかったんだけど、尚は俺と付き合いたいの?」 「……は?今更それ、聞く?」  悠臣の言葉にショックを受けた尚行は重ねられた手を引っ込めようとしたが、それに気付いた悠臣が逃すまいと手に力を込め引き止める。 「だって、確かに好きとは言われたけど、具体的にどういう関係になりたいのかは言われてないし、ベースの件もあったし中途半端に蒸し返してわざわざ聞くわけにもいかなかったから、だから俺もいろんなパターン考えて悩んでたんだよ」  普通に考えて「好き=付き合う」だろうと尚行は頭の中で思ったが、過去の自分はそれで失敗した。あんなに長い時間一緒に居たのに、付き合っていると思っていたのは、結局自分だけだった。 「大人になるとさ、そんなこといちいち言葉にしなくてもわかるだろって風潮あるし、実際俺もこれまではそんな感じだった。なんとなく始まって、なんとなく上手くいかなくなって、終わって、そういうのが大人の恋愛なのかなって、……それから、大人になったからこそ自分たちの気持ちだけで動くのは違う気がして、特に俺たちはそれぞれ周りの人に助けて貰ったおかげで今があって、それで出会えてこうして一緒にいられるのに、それ全部蔑ろにしたままでは、俺は先には進めない」  悠臣が何を言おうとしているのか、わかるようでわからない尚行はもう余計なことは言うまいと今度こそおとなしく次の言葉を待つ。 「でも幸いというか、当然というか、尚の周りは理解者が多いし多分問題ない」 「……俺の周り?バンドのメンバーとかってこと?」 「そう、SouthboundのメンバーやStrange Brewのマスター、それから莉子ちゃん。あとまだ会ったことないけど、尚のご両親も」  家族や極親しい身内にはとっくにカミングアウトしてあるため、尚行が男と付き合っても今更周りからどうこう言われる心配はほぼ無いと思われる。

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